第41話


 まるでリゾートホテルのような内装の室内は、ラグジュアリーな雰囲気だ。真っ白なベッドシーツの上に腰を掛けながら、目の前に立つ律をジッと見つめる。


 お風呂から上がった際に、新調したランジェリーを身に付けていた。万が一に備えたつもりでいたけれど、まさか本当に肌を晒してしまうのだろうか。


 「律……」


 名前を呼ぶのと同時に、優しく髪の毛を梳かれる。

 お風呂あがりなため、ツインテールではなくて下ろしている状態だった。ジッと律の口元を見つめていれば、意を決したように唇が開く。


 「髪の毛下ろしてるの新鮮で可愛い。水着も、ツインテールが巻かれてないのも、全部可愛かった」

 

 突然の誉め殺しに、ぽかんとしながら彼女を見つめる。いやらしい雰囲気は皆無で、堪えていた想いを吐き出す姿は新鮮だった。


 「お腹に小さな黒子があるのも知らなかったし、海ではしゃいでる時もすごく可愛かった」

 「い、いきなりどうしたの…?」

 「ずっと言いたかった。けど、みんなの前で言ったらあれかなって…夜までいうの我慢してたの」


 両手で顔を覆って、穴があったら入りたくて仕方なくなる。


 一方的に期待して、可愛い下着まで着ているなんて自分はどれどけ欲に塗れているのだろうと、恥ずかしくて仕方なくなってしまったのだ。


 今日だって、律の水着姿に夢中だった。

 何枚もこっそり隠し撮りして、蘭子だって可愛いと言いたかったのだ。


 「……嬉しい。律も水着すごく可愛かった……ずっとドキドキしてた」


 照れ隠しではにかみながら、正直に想いを告げる。

 褒めちぎられたおかげで、顔が赤い自信があった。


 顔を見合わせて、そっとキスする。触れるだけのキスに慣れ始めて、それだけだと物足りなくなってしまうのだから人間というのは本当に欲深い。

 

 「……ッ」


 首筋を人差し指で触れられて、そのまま服の上から背中をなぞられる。もどかしさを堪えようとギュッと目を瞑りながら、初めての触れ方に胸をドキドキさせていた。

 

 「……この前、下着の中が濡れてるって言ってたでしょ」


 耳元で囁かれて、ビクッと肩を跳ねさせる。恥ずかしくて消えてしまいたい過去を指摘されて、羞恥のあまり涙目になってしまう。


 「……正直すごく、興奮した。蘭子は私で興奮してくれるんだって」


 切長の彼女の瞳に囚われて、逸らすことができない。あわよくばこのまま吸い込まれて、彼女と一つになってしまいたかった。


 「……必死に我慢しようとしてるのに」


 熱い息を耳元で吐かれて、堪らなく興奮している自分がいた。

 リップ音をさせながら彼女の首筋にキスを落として、そのまま右頬に唇を押し付ける。


 「……我慢しなくていいよ」


 同じように耳元でおねだりをすれば、律が驚いたように息を呑んだ。

 抱きしめる腕には更に力が込められて、きっとお互いの心音が伝わってしまっているだろう。


 「……なんで今そんなこと言うの…」

 「え……」

 「桃宮さんとひなのことが気になって、手出せない状況で…」


 二つ隣の部屋で、おまけに遊び疲れて爆睡しているだろうから、きっと騒音で迷惑を掛けることはないだろう。


 しかしマナー的に良くないことは確かで、もどかしく感じてしまうのだ。

 

 「……声我慢出来るよ」

 「キスであんなに声漏らしてるくせに何言ってるの」

 「あ、あれは…!律だって時々声出てるよ」

 

 自覚がなかったのか、律にしては珍しく頬を赤くさせている。


 「……蘭子には言われたくない」


 なんだか自分ばかりが手玉に取られているようで。律に翻弄されるのは好きだけど、蘭子だってたまには彼女を掻き乱してみたいのだ。


 勇気を出して、彼女をベッドに引き摺り込む。そして起き上がるよりも早く体に跨って、押し倒しているような体制で唇を奪っていた。

 

 この体制でキスをするのは初めてで、何度か啄むように唇を重ねた後、柔らかいものを彼女の口内に侵入させる。


 「……んっ、んぅ…ッ」


 お互いいやらしく舌を絡め合いながら、確かに声を漏らしているのは蘭子の方だった。


 自分ばかりが気持ち良くなって、翻弄されているのが悔しくて。はしたなく期待して、彼女を求めてしまう。


 いじけるように、彼女の耳元で拗ねた言葉を吐いていた。


 「……今日律のために可愛い下着付けてきたのに」


 ピタリと、背中を撫でていた手つきが止まる。

 不思議に思いながら、起きあがろうと腕に力を込めた。


 「……今度までお預けだね」


 彼女から離れようとするも、気づけば体制が反転していた。先ほどとは真逆で、蘭子の方が律に押し倒されている状況。


 目をパチクリさせながら戸惑ってしまう。


 「え、え…?」

 「……あんまり煽らないでよ」


 そのまま首筋に顔を埋められて、戸惑いながら抗議の声を上げる。柔らかい舌がそこを舐め上げるたびに、擽ったくて上擦った声を上げてしまいそうになるのだ。


 「っ、律!?今日はしないんじゃ…」


 脇腹をくすぐられながら、必死に漏れそうになる声を堪えていた。慌てて片手で口元を抑えるが、快感に慣れない体は言う事を聞いてくれない。

 人差し指で撫でられるだけで、こそばゆさと快感に襲われてしまうのだ。


 「……んっ、ッ、あぅっ…」

 「黒子あったのこの辺だよね」

 「…あんまり、触んないで…ッぁっ…」


 下半身にジンワリと熱が宿って、あの時と同じようにあらぬところが滴っていくのを感じていた。


 律に触られると今まで知らなかった自分が引き出されて、それが少し怖いけど、嫌ではない。

 身につけていたブラウスのボタンを外されていく度に、期待で胸が早鳴っていた。


 「…ッ」


 まさかそこまでされるとは思わずに、恥じらいで顔を背けてしまう。

 問答無用でボタンは全て外されてしまったため、明るい室内で蘭子の下着に支えられた胸はバッチリと恋人に見られてしまっているだろう。


 「……可愛い下着だね」


 白色ベースに、淡いピンク色の刺繍があしらわれたランジェリー。


 可愛いと思われたい一心で購入した物で、褒めてもらえて素直に喜んでしまっていた。


 鎖骨あたりに顔を埋められて、ドキドキしながら彼女の動向を見つめていた。

 恐る恐る頭部に手を添えて、良い子良い子をするように撫でてやる。


 「ッ、り、律…」


 まさか最後でするつもりなのだろうか。

 戸惑っていれば、彼女の顔が鎖骨から胸の谷間へと移る。


 柔らかな胸の狭間に顔を埋めた律は、リップ音をさせながらそこにキスをしていた。


 そのまま吸い付かれれば、チクンとした痛みが走る。


 「んっ…」


 唇が離れてから視線を下げれば、案の定そこには律の跡が刻まれてしまっていた。

 顔を赤くさせながら、彼女の髪を優しく髪を梳いてやる。


 「今日はここまでね?」

 「……ずるい」

 「どうして」

 「私ばっかり期待して、ドキドキしてるみたい……ンッ、んぅ」


 最後まで言い終えるよりも先に、再び唇を奪われてしまっていた。口内を蹂躙されながら、心地よい感覚に無意識に太ももを擦り合わせる。


 柔らかくて熱い感触が、堪らなく好きだ。

 もっと、もっとと求めて、さらに彼女の熱を知りたくなってしまう。


 「ンッ……っ」


 離れていく唇を名残惜しく見つめていれば、手を取られてそのまま律の胸元の間へ導かれる。


 「……これでも同じこと言える?」


 蘭子と同じように、律も蘭子に対して興奮してくれていたのだ。

 同じ気持ちだと分かって、嬉しくて。同時に期待してしまう。ダメだと分かっているが、このままもっと彼女の熱を触れたいと願ってしまう。


 きっと律だからこんなにも興奮するのだ。愛おしくて大好きな相手だからこそ、はしたなく欲望を膨らませて浅ましく期待してしまう。

 

 好きな人を前にすると、まるで理性を失った獣のように相手を求めてしまうのかもしれない。

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