第7話
華奢で小柄なひなと、スラッとして背の高い律の組み合わせはかなり目立つ。二人とも容姿が整っているからこそ、すっかりとお似合いな雰囲気を醸し出しているのだ。
最近では教室にて、筒井律と佐藤ひなはいつも一緒にいる。
最初は皆驚いていたと言うのに、時間の経過と共にそれが当たり前のものになっていた。
「……ふぁ」
連日遅くまで勉強しているせいで、眠たさからつい欠伸をしてしまう。本当は授業はとっくに終わっていると言うのに、わざわざ残って勉強をしていたのだ。
そろそろ帰ろうかと考えていれば、突然声を掛けられてビクッと肩を跳ねさせる。
「眠いの?」
眠気は一気にどこか遠くへ飛び去って、こちらに声を掛けた筒井律へ恐る恐る視線を寄越す。
あの氷の女王が、下々に声を掛けるなんて信じられなかった。
佐藤ひなと接しているうちに、コミュニケーション能力でも身につけたとでもいうのだろうか。
「普通よ」
「相変わらずクマあるけど」
「……そういうこと、いちいち言わないで。デリカシーないよ」
こちらの悪態に、律がおかしそうにカラリと笑ってみせる。
前はそんなに頻繁に笑わなかった。笑みなんて殆ど見せず、彼女が自分から誰かに声を掛けるなんて有り得なかったと言うのに。
当たり前の事実に、どこか寂しさを覚えてしまう。
10年も彼女のことを知っているのに、そんな風に気軽に笑う人だなんて知らなかった。
「……どうして転校生と仲良いの?」
「気が合うから」
それは裏を返せば、蘭子とは気が合わないからこれまで仲良くしてくれなかったのだろうか。
咄嗟に寂しいと言う言葉が脳裏に浮かんで、必死に言い訳をする。
別に寂しいとかではなくて、何となく、胸がモヤモヤするだけだ。
それ以上でもそれ以下でもなくて、特別な感情なんて込められていない。
「……ああいう子がいいんだね」
捨て台詞を吐き捨てて立ち去ろうとすれば、強い力で二の腕を掴まれる。
子供体温なのか、以外と手が熱い。
また知らなかった事実が一つ増えるが、これくらい佐藤ひなであれば当たり前のように知っているのだろう。
「あのさ、央咲さん…」
その口からどんな言葉が紡がれるのか。
蘭子にはどんなメッセージをくれるのかと期待していれば、何も知らない第三者の声で彼女の言葉は掻き消されてしまう。
「お待たせ律ちゃん……あ、ごめん…取り込み中だった…?」
申し訳なさそうに謝る姿を見て、スッと心が冷え込んでいくのを感じていた。
この子と帰るための暇つぶしで、蘭子は話しかけられていただけだなのだ。
彼女にとっての一番は佐藤ひななのかと、寂しさからその手を振り解いてしまう。
「……帰る」
はしたなく大股で歩きながら、自分がムスッとした顔をしている自信があった。
先程の彼女達の顔を思い出せば、またムカムカとした感情が込み上げてくる。
「さっさと付き合ってしまえば良いのよ、あの二人」
一人でブツブツと文句を言いながら、またチクンと胸が痛んだ。本当にそれで良いのだろうかと、また訳のわからぬ感情が込み上げてきて、更にイライラが募っていく。
何となく胸にモヤが掛かっているようで、はじめての感情に酷く戸惑っているのだ。
晴れない気分のまま、靴箱で靴を履き替えている時だった。新聞部が作ったと思わしき、A4サイズのインタビュー記事。
いわゆる校内新聞と呼ばれているそれは、いつも軽く目を通すだけだったというのに、見知った彼女の名前についマジマジと見入ってしまう。
「筒井さんじゃない……」
どうやら今回のテストでも一位だった、筒井律へのインタビュー記事が掲載されていたのだ。顔写真も大きく映し出されていて、その綺麗さに見惚れそうになる。
格好良く綺麗だと持て囃されている彼女はファンも多く、新聞部からすれば格好のネタなのだろう。
「……なになに、勉強のコツに美容法…家での過ごし方…て、殆どプライベートの情報じゃない!」
一人でツッコミを入れながら、さらにインタビュー記事に目を通していく。
「好きなタイプ……努力家で勉強が得意な子」
無意識に眉間に皺を寄せたのは、華奢で清楚なあの子を連想してしまったせいだ。
いとも簡単に筒井律を纏う氷を溶かしてしまった、暖かい太陽のようなあの子。
「なによこれ、匂わせじゃない!」
ここまで露骨に佐藤ひなの情報を載せるなんて信じられない。
自分がファンを多く抱えているという自覚があるのだろうか。彼女達が見たら、酷くショックを受けることは明確だろうに。
「……付き合うのも、時間の問題なのかな」
そうなったとしても、別に蘭子には関係はない
蘭子はただ、今まで通り勉強をするだけ。こちらなんて眼中にもないと見下ろしている彼女を追い越して、ナンバーワンの座を奪い取ってやるのだ。
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