第六話 他課の教師達

 

「えー、それでは!君達の今後の予定を説明します!」

 学園内の作りは至ってシンプル。

 長い廊下の両側に一定間隔で部屋があり、部屋の内部も黒板と複数の机が配置されていたり、何も無い部屋があったり、とそのまま現代の学校の一例を持ってきたような構造だった。

 特殊な部屋もあるのだろうが通った中には一つも見当たらなかった。


 現在は転生者全員に机と椅子が用意され、全員着席、一段上がった教壇、背後に黒板を背負って立つのはダスクード、俺、シャルロッテ、カレンの四人。

 グリム含め、他の教師は別室で準備をしていたり、他課へと連絡しに行ったりと、サボっているわけではない……筈。


 如何せん新人教師なもので要領が全く分からないんだよ、畜生。


「これから他の課の代表の教師数名が集まる神託の間に行きます。そこで我らが女神様があなた方に与えられた役目を告げるでしょう……」

(お前が説明するのかよ)

 シャルロッテが説明する風だったが割り込んできたのはカレン、シャルロッテも同じ事を思ったのかカレンの方を見て目をパチパチさせていた。


(そうか、女神さま関連だと口数が多くなるのか)

 先程もそうだった、と思い出す。

 だからシャルロッテの言葉を横からかっさらったのだろう、満足したのかシャルロッテの視線に対してニコリと微笑んだ。


(いや、他の事も説明しろよ、女神盲信者)

 カレンに対する脳内での呼称が決定した。


「コホン、その与えられた役目……所謂職業を参考に所属課を決めると良いよ。ちなみに私達、正義の味方課はいつでも君達を待ってるからね!」

「おいシャルロッテ、ルール違反はやめていただこうか!」

 ガラッ!と大きな音を立てて扉を開け放したのは黒い鎧を身に付けた黒髪の男、ズカズカと教室内へと入り、俺達の前……つまり教壇のすぐ近く、生徒達のすぐ近くに来た。


「我は『ダークヒーロー課』所属教師、ウェルバー・ローレン。落ち目の正義の味方等よりこちらに所属した方が順風満帆な転生生活を送れるぞ?」

「いやぁ、野蛮人はイケないねぇ~」

 空いた扉からスッと入ってきたのは黄金色が散りばめられた群青の礼服を纏った金髪の男、ダークヒーロー課を名乗った男の横に立つ。


「君達には野蛮な生活は似合わない、貴族として生きて欲しい。欲しいものはなんでも手に入る、美男美女との婚約も自由さ。どうせ生きるならモテモテで安定の生活を送れる『貴族課』に入らないか?」

「プー、クスクス。狙うなら世界の覇権を狙うでしょ、普通」

 まーだ増えるのか?と思いきや声が聞こえたのは貴族課の男の背後、よーく目を凝らすと何か透明な物が動いていた。


「最初から与えられた人生なんてつまんないじゃない。『市民課』でチートを使って暴れて貴族、果ては王族にまで出世するから面白いんじゃないの!!」

「いやぁ、そうとも限らないと思うよ?」

 待て、何人来る気だ?

 この教室は決して広くないんだぞ?


 透明人間の語りの後は教室のもう片方の扉……後ろ側からゆったりと入ってきた茶髪の青年の番らしい。


「僕達は『スローライフ課』、チートは別に否定しないけど何も金儲けや出世のために力を使う必要無くない?不自由がない程度に自由に暮らせば良いのさ」

 ……それからも『義賊課』だの『海賊課』だの『宗教課』だの……とにかく色々な課の連中の代表教師が次々と室内に入ってきた。


 だが実際大半の転生者は『正義の味方』『ダークヒーロー』『貴族』『市民』『スローライフ』の五課の中から選ぶだろう。

 特に正義の味方とダークヒーロー、それとスローライフが多い。

 他の課は大体記憶だけ継承し、赤子の頃からやり直す事になる、急に貴族にするために辻褄を合わせる手間を神は惜しむ、新しい生命に魂を押し付けた方が早いとのこと。

 先の三課は身体はそのままに異世界へと旅立てる。

 勝手が知れた身体で動けるのとこちらでの修行を生かしやすいのもこの三課、成長過程で肉体に刻まれた経験が消える恐れもある事からこのような人気順になっている。


 まぁ一番街に来たけりゃ正義の味方が一番楽だ。

 目的が分かりやすいからな。


 それとスローライフはこっちでの生活を考えるならあまり推奨できない、功績があやふやなため、三番街になることが多い、というかスローライフ出身で一番街を見たことがないかもしれない。


「なぁシャル。これって何の時間だ?」

「えぇっと……予期せぬプレゼンタイム?」

「貴様見慣れない顔だな」

 うぇ、なんでこんな視線が集まるんだよ、シャルのせいか?絶対そうだ、なんでこいつに話しかけるだけで注目されるんだ!


「皆々様初めまして、不本意ながら新しく正義の味方課の教師になりましたユウキです。すぐにいなくなるかもしれませんがよろです」

 身分証のコピーを名刺代わりにここにいる教師に渡す。


「「「「「は?レベル100?」」」」」

 お前らもレベル100をバカにする奴等かよ。


「ハッハッハッハ!血迷ったか!?やはり覇権は我々ダークヒーロー課だな!」

「いやぁ、新任教師の噂は立ってましたが……どんな化け物かと思えばレベル100ってww」

「スローライフ課にも中々いないねぇ……」

 色々な声が聞こえたが全員に共通していることは俺をバカにする声か正義の味方課をバカにする声だ。


「よし!今回の新任教師のデモンストレーションは我が課が担当しよう!良いな!?」

「デモンストレーション?」

「あー、ごめんねユウキ、多分戦う事になる……ダークヒーロー課の生徒と」

 は?

 どうしてそうなるんだよ……。




 ◇◇◇




「ルールはどちらかが降参するか戦闘不能になるまで。殺害した場合は失格。それで良いですか?」

「構わん。我が課の生徒はレベル100に負けるような修行はしとらん!」

 えー、レベル100なんて倒しても何の得にもならないじゃん。

 100でクリアできる世界なんてマジでゲームじゃんw


 あーもう、うっせ!

 どいつもこいつも好き勝手に……。


「おいレベル100!我が育てた生徒達の中で特に優秀な者を10人選んでやったぞ。精々死なないように気を付けるんだな!」

 はー?だっる!

 口には出さないけど、だっる!!


「シャルー」

「ごめんね~?」

 シャルロッテは判定を公平にするため外野で見物、審判は貴族課の教師だ。

 っと、シャルが近づいてきた、なんだ?棄権して良いってか?


「くれぐれも、殺さないでね?」

「……お前が俺の事をどう思ってるかが分かったよ」

「究極のめんどくさがり、休息のためなら人も殺せる」

「言うな。本当にやってしまいそうで怖い」

 実際、自分でもやりかねないと思ったことがある事案だ。


「あと、私が思う限り君がこの場で一番強い」

「……買い被りだ」

 レベル500オーバーがウヨウヨいるんだ、100に勝ち目があるわけ無いだろう……あー、でもまぁ


 ちょっとはやる気、出そうか。


「『召喚サモン』」

 開戦前に偉大魔法にあたる、召喚魔法を使用、ただの丈夫なだけの自らの背丈の半分くらい……1メートル無い程度の長さの木刀と無骨な黒い銃を召喚した。


「いつでも良いぞ、俺の準備は出来ている」

「では、正義の味方課新任教師とダークヒーロー課10名の模擬戦、開始!!」

 仕方ねぇ。

 少し遊んでやるよ、身の程知らずのクソガキ共。


 そうして俺は銃口を生徒……ではなく自らの頭に当てて、躊躇無く引き金を引いた。


 

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