第五話 新たな転生者達
10時だ。
それを告げる鐘が3番街から鳴り響く、鐘の音は10回で終わり、それと同時に門は白い光を放ちながら開かれた。
全部で30の光の柱が門の前方に立つ、これが天国に導かれ、全く別の生を許された人間の現れ方か。
「やぁ、皆の衆。君達は選ばれた人間だ。善行の先にたまたま死があった?死がある事を知っていた?どちらでも構わない、君達は他人のために命を懸けれる人間だ、ここで強くなって世界を救う勇気ある者になってくれるとありがたい」
男女比は半々くらい、年齢は……見た感じ10代後半辺りが多いか?
人は命令されると反発したくなる、だが自分を立てられ、お願いされれば多少断りにくくなる。
少し
現に『ここは何処だ?』 とか『俺死んだんじゃ……』とかそれぞれバラバラに適当な事を言っていた転生者達が突如現れた
(……ん?)
そんな中、一人の少女が女神ではなく俺の方を見ていた。
目を合わせると、小さく『ヒッ…!』と怯えたような声、いや、実際怯えたのだろう、顔が真っ青になり、震え出した。
(俺から何かを感じた……?いや、無いな)
単純に死ぬ前に俺に似た誰かが居た、それが死の原因だった、的な事だろう。
人は同じ顔が三人は居るらしいからな。
第一、俺が他と少し違うところと言えば少し闇属性の魔力が濃いだけ、そもそも魔力のなんたるかを知らない死んだばかりの転生者達には何も感じられない。
「では、早速行こうか。君達の適正を見にね。何人の勇者が生まれるか、楽しみだ。あとはよろしく!」
「はいはーい、女神様に見惚れてる諸君!君達がこれから暫くの間過ごす場所を紹介するよ~♪こっちに来てね~」
ルミエールはいかにもそれっぽい演出……具体的には白い光に包まれて消える……でその場を去るとシャルロッテがその空気を引き継いで転生者達を学園に連れていこうとするが、突然一人の青年から手が挙がった
「なーにー?」
「あなた達は誰ですか?」
あー、まぁそうだな。
女神サマはともかく俺達は自己紹介してない。
「私達はね、君達の先輩、つまりは同じ転生者だよ」
「つまり転生先でまた死ねばここに戻ってくると?」
へぇ、『転生できる!』って浮かれてない勢か。
不安要素をここで出来る限り消したい派だな。
「転生先で天寿を全うするか、優秀な成果をもたらした者がここに再び現れるのだ。そのために貴様らはここで」
「それ以外はどうなりますか?」
ダスクードセンパイ、どんまーい。
食い気味にその先を促されてやんの。
おい、睨むな。なんで声出してないのにバカにしたのバレてるんだ。
「それ以外?えぇっと……確かぁ、栄光の輪廻?だかに再び取り込まれてまた1から別の生に?とかなんとか」
「シャルロッテさん、永劫の輪廻です。現在あなた方は女神ルミエール様のお力によって輪廻から外れた存在となっています。本来はまた記憶を完全消去され、赤子からの人生ですが生前の記憶を持ったまま全く別の世界で生きていくことを許されたのです。記憶があるでしょう?誰かのために自分を犠牲にした記憶が」
「……確かに俺の最後の記憶は子供を交通事故から庇った記憶です」
シャルのあやふやな説明をカレンが引き継ぐ、質問責めをする青年も状況が段々と理解できてきたようだ。
「その功績を讃え、我らが女神様はあなた方に別の世界で自由に生きれる権利を与えたのです、何事も与えられた能力次第、ですが魔王等の敵を倒すも良し、スローライフを送るも良し、貴族の生活を満喫するも良し。何を迷うことがあるのです!全てあなた方の善行の成果なのです、有り難く享受しなさい!!」
あー、なんかヒートアップしてるなぁ、なるほど、この女はこういうタイプか。
改めて転生者達を見てみると黒髪が大半だった、日本人から対象を選んでいるのだろうか?
それとも、少しでも剣や魔法の世界に憧れを持っている者を集めた結果として日本人が多かったのだろうか?
まぁ恐らくは後者だろう、アニメ、漫画、ライトノベル等の剣と魔法がメインのお話は日本発が多い。
俺の生前もそうだった。
いつだってカッコよく、強い主人公は、正義の味方は、みんなの憧れの対象だった。
悪役にも魅力がある?正義とはなんだ?、五月蝿い、そんな事を考え始めるから……。
……脱線した、現実に思考を戻そう。
ある程度満足したらしい青年は質問を止め、他の者も大人しく教師陣に付いて歩く。
少し歩くと昨日も見た光景、『希望の世界』の本社が見えた。
やけに距離が短く感じたのは錯覚ではない、微妙に景色が歪んだタイミングが何度かあったため、恐らくはルミエールが空間魔法で距離を無理矢理縮めたのだろう。
空間魔法は転移以外にもこういった空間を無理矢理歪めて距離を短くする事だって出来る。
な?リスクを背負って転移する意味が無いだろう?
その社屋を通り過ぎ、裏手へと進むこと数分……。
大きなグラウンドとその北側と西側を塞ぐように立つ四階建ての白い建物が現れた。
グラウンドは……とにかく広い、現代人がその大きさを表現するならば東京ドーム五個分とかそんな表現になる。
その中の二個分くらいが森林、さらに二個分が小さな街、さらに一個分が通常の何もないグラウンドだ。
何故そんなに正確に分かるのかって?
目の前にある地図にそっくりそのまま書いてあるからだ。
ジオラマのようなその地図に釘付けになる転生者達、先程俺に怯えた様子だった少女も目を輝かせてそれを見ていた。
五分程でとりあえず満足した様子の彼等を連れて向かうのは白い建物、学園という通称から校舎、とでも呼ぼうか。
鉄格子のような正門が自動で開かれ、転生者達を招き入れた。
(ん?)
正門をくぐる時、何か指先……というか全身に何か痺れを感じるものが流された。
周囲を見れば感じている者といない者が居たようだ、首を傾げている者、何事もなかったように校舎を眺める者の二種類に分かれていた。
教師陣は何も感じていない、それどころか転生者の反応を見ているようだった。
この痺れの正体だが、確定ではないが検討は付いている。
この建物にその人物の魔力反応を認識させているのだろう。
この人物は危険人物ではない
もし転生前に逃げ出したら自動で教師陣に知らせが届くようになる
認証されていない人物が来たならば先ずは迎撃体制を整える
防衛システムと同時に逃亡の防止も担っていると見た。
何故逃亡の防止システムが必要かって?
知らねぇよ、ただな……
一度も弱っちい人間を天国で見た覚えが無いんだよ。
この世界の人間は一度は世界を救った人間、または一定の技術を極めた後に死去した人間。
全員一定水準以上の強さを持っている。
しかし、転生門以外で転生前の弱い人間を一度も見なかった、これは学園にすし詰めにされていると見て間違いないだろう。
教師陣は反応があった者をマークする、魔力を感じる力が一般人より優れていると見て間違いないからだ。
(……俺の正門の印象は間違いなかったって事か)
ここは学園なんかじゃない。
牢獄だ。
神に善行を見られたばかりに神の娯楽に付き合わされる新たな転生者達。
転生後の人生を満喫しても天国へ呼び戻され、新たな生を歩み出せない人々よ。
お前達が
両手を見て首を傾げる黒髪の少女を見て、より一層、そう思ったのだった。
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