第四話 学園の教師達
「随分と表情が暗いね、元気?」
「全く元気じゃねぇな。なんで朝っぱらから働かなきゃならないんだ」
「ねぇ知ってる?10時前って一般的には昼間って言える時間帯だよ?」
「俺は一般論で生きないことを信条にしている」
「不味いなぁ、友達が社会不適合者になってる……」
翌日、案の定酔っ払って運ばれていたシャルロッテは二日酔いなどせずに部屋に押し入り、6時に叩き起こしに来た。
軽く準備を済ませた後に、彼女に連れられてユウキは三番街へと向かったのだった。
そしていつものようにアドリアーヌで食事を取り、次に四番街へ続く道を時間に余裕をもって歩く。
「いやぁ、楽しみだなぁ~これからは一緒にお仕事出来るんだね!」
「俺に教師なんて向いてるとは思えないがな」
「きっと私よりも尊敬される先生になれるよ!私教えるのヘタクソだし!」
なんと自覚があったのか。
「下手な自覚があるなら修正しようという意識を持てよ」
「痛い痛い痛い!!ごめんって!それ以上されるともっとバカになるぅぅ!!?」
シャルロッテの頭に右手で掴みかかり、思いっきり握る。
昨日の女神のように弾け飛びはしないが痛みはある筈、この期に少し八つ当たりさせて貰おう。
腹黒女神の頭を潰した程度では俺の心労は解消されない。
奴らに痛覚というものは恐らく存在しないのだから……。
でなければ再生するとはいえ自分の頭が吹き飛ぶ痛みに耐えられる筈がない。
「シャルロッテ・ローレイヴ!!何をしている!さっさと来い!!」
「あ、ヤバッ。ダスクードさんがキレてる!急ごう!」
遠くに見える大人の三倍程度の高さの白の扉の前にいる集団から大声でシャルロッテを呼ぶ声が聞こえた。
時間は10時の7分前、歩いても5分前には着くくらいの距離だったがどうやら納得いかない者が居たようだ。
◇◇◇
「あっれぇ?いつも通り5分前に着くように来たんだけど?」
「今日は新任教師がいると聞いている、その分時間を取るべきだろう!」
「あっちゃぁ、ごめんユウキ、これは私のミスだ」
「俺もル……女神サマから10時に来てくれれば良いと聞いていた、シャルに言われなければ5分前行動もしなかっただろうから仕方ないな」
「あれ、昨日ってルミエール社長に会ってたの?なーんだ、私も連れてってくれれば良かったのに
先程大声を上げていたのは金髪ゴリゴリのマッチョだった。
思いっきり体育会系、グリムとは正反対だ。
「貴様が新任教師か、新人は誰よりも先に来るべき、社会に出たことがある者ならば常識だろう」
「生憎と、社会に出る前に死んじまったんでね、学ぶ場所がなかったんですよ、先輩?」
「……まぁいい、俺はダスクード・ブレイズだ」
「ユウキ、まぁほどほどに頑張るのでよろしく」
金髪の額に青筋が立つ、はて、何が気に入らなかったのやら。
「こういう正式な場では姓も名乗るべきだ、とも教えるべきか?」
「あぁ、それなら。こういうわけで」
身分証を突き付ける。
名前…ユウキ
職業…勇者
レベル 100
そもそも姓が書かれていないのだ、ならば名乗る必要はないだろう。
「……チッ」
舌打ちが返ってきたがそれ以上は絡まれなかった。
「カレン・レミーラよ。あなたにも女神様の加護があらんことを」
「グリム・ベルフェル。総会でも会いましたがこちらでもよろしく頼みます」
と言った感じで正義の味方課教師合計7名の挨拶が終わった。
全部で10人いるらしいが残りは『学園』で待機しているらしい。
今日来る転生者の他にもまだ修行中の者もいるのだ、それを放っておくわけにはいかないのだろう。
他の課の教師も学園待機、月代わりで転生者の迎えを各課が担当しているようだ。
「シャルちゃん、彼は勇者なんだよね?」
「うん、そうだよ!」
「んー、この場に勇者はシャルちゃんだけだけど……君がやったら彼絶対に死んじゃうよね」
「ええ?なんで勇者の皆待機してるの!?」
「フン、シャルロッテ・ローレイヴがいると自分が弱く見えると嘆く軟弱者ばかりだからな!よし、俺がやる!!」
ん?金髪の魔力が練り上げられていく……?
まるでこれから戦うかのような、そんな雰囲気を醸し出す。
「ユウキ!!貴様はシャルロッテ・ローレイヴと女神様のお気に入りだか知らんが俺は認めていない!!」
「はぁ、別にいいけど」
「故に、貴様を今から殺す気で殴る」
「……は?」
おいおいおい、今俺を殺すって言ったか?このセンパイ。
「俺の一撃に耐え、転生者が来る前に戻って来たら、その時は貴様を認めてやろう」
あー、駄目だ、コイツ。
話し聞かねぇな。
「えー、めんどくさ。遠慮しておき」
「行くぞ!」
「聞けよ脳筋!!」
脳筋の姿が消え、目の前に筋骨隆々の腕が現れた。
(あー……、一応レベル700くらいはありそうだな)
そんな事を考えながら、ユウキはその拳を受け入れて数秒の内にその場から1キロ程先の空まで飛ぶことになった。
◇◇◇
(あっちゃぁ……多分あれやる気失くしちゃったなぁ……)
その光景を見ていたシャルロッテは生死に関しては全く心配せず、少しだけ生気を帯びていたユウキの目が再び死んでいた事の心配をしていた。
「ちょっとダスクード、少しは加減しなさいよ」
「フン、レベル100など我々の中どころかこの天国に必要無い。死んだらそれまでよ」
「一応あの人うちの株主なんだけどなぁ……これ私も責任問われるのかなぁ?やだなぁ……」
シャルロッテ以外は全員ユウキが死んだと思っている。
とりあえず状況を聞いてみようと思い、ユウキの端末番号に連絡を試みる事にした。
『……ただいま、久しぶりの空中散歩をしております。ご用件がありましたら、ピーという発信音の後に』
「ふざけてないで戻ってきてよぉ、時間無いよ?」
『やる気が起きねぇ、なんだあの脳筋』
「仕方ないよ、君も態度悪かったし」
『全部事実を正直に話しただけなんだけどなぁ……』
皆が私の方を見た。
ズンズンと足音を立てて寄ってくるのはダスクードさん。
「誰と話している、シャルロッテ・ローレイヴ」
「ユウキだよ?ダスクードさんが吹き飛ばしたからやる気失くなったらしいよ」
「ちょっ、ちょっと待って!?レベル100がダスクードさんの一撃受けて普通に電話応対出来る状態なんですか!?」
「貸せ!!」
あ、端末取られちゃった。
あとで消毒しよ、この人いつも汗臭いんだよね。
「貴様……どんなトリックを、あ゛?今すぐ戻ってこい!……何?めんどくさいだと!?貴様はこの職に誇りはないのか!?」
あー……そんなもの無いだろうなぁ、そもそもユウキはこの仕事の意欲ゼロだし。
「……ユウキ君でしたか。彼は何者でしょうか?」
「私の一番の親友だよ?」
「いえ、そうではなく……」
質問の意図は分かってる、でも私からは何も言わない。
わざわざ友達の手の内を明かすなんて行為するわけがない。
「転生前の過去の詮索は禁則事項、能力に関しての詮索もあまり好ましいことではないって私は聞いたことあるけどなぁ~、私に関してなら教えてあげるよ♪」
「……もういいです、この場は諦めましょう」
こうしてれば相手は諦める。
私の強さは周知の事実、色々知ったところで私には『希望の世界』にいる他の勇者が全員協力とかしない限り勝てないからね……多分。
……あ、神様には勝てないよ?
ルミエール様なんて無理無理、何回致命傷与えたら良いんだろうなぁ、社長に勝つには。
「あれ?ユウキ君いないの?」
「うん、ダスクードさんに吹き飛ばされて……え?」
あれ、今の声……カレンさんじゃない、彼女は私の背後を見て口をパクパクさせてる、まるで魚みたいだ。
「やっほ、シャルちゃん」
「珍しいね、こんなところに来るなんて……ルミエール社長」
私の言葉で全員が女神の来訪に気付き、彼女の方を見て膝を屈した。
◇◇◇
「……切れた?まぁいいやこのまま飛んで行けば1番街に辿り着くだろ」
ユウキはダスクードの一撃から魔力を纏うことで身を守り、勢いに逆らわずに背後に吹き飛ぶように力のベクトルを調整した。
結果として上空百メートル付近を地面にほぼ平行に飛行している状態となっていた。
わざわざ百メートルまで上昇したのは1番街以外でその高さに至る建造物がないから、低空で飛んで避ける対象を作る必要はない、なるべく無操作で帰りたい。
「やぁ、空中散歩を楽しんでいるところ悪いね」
「……俺を連れ戻しに来たか。腹黒女神」
しかし、そうは問屋が卸さないらしい。
「随分とお早いお越しだな?暇なんじゃないか?」
「こいつぅ~、良い機会だから帰ろうとか考えてるんだろうけどダメでーす!特別に空間魔法…
凡庸魔法と言われる火、水、風、土、光、闇の他にも色々な魔法がある。
それらは総じて、起こる現象の想像が難しい、空間魔法もその一つだ。
これらの魔法は凡庸の反対、偉大魔法と呼ばれている。
実際、転生先では滅多に使える人物がいないし、居た場合は国の重要ポストに立っていること間違い無しだ。
例えば、回復魔法。
これは人体の構造を深く理解していないとそもそも使えないらしい。それに通常、攻撃に使う
例えば、召喚魔法。
何かを呼び出す扉を作る、というイメージだがその
本題、空間魔法。
使い方は色々あるがよく聞くものと言えば自分だけの空間を作り出し、物を収納する収納空間と自身や他人、使い手によっては魔法を目的の場所へと距離を無視して飛ばす転移魔法の二種類が代表。
難易度は……まぁ言わずもがな、だ。
自分だけの空間を作る?一瞬で目的地まで移動する?百歩譲って想像はできても魔力の問題でなかなか出来るものじゃあない。
転移は通常運動エネルギーで移動するところを魔力で代用して無理矢理時間短縮している状態、まずは自分の身体を完全に把握し、目的地を寸分違わず想像する、身体の想像が不十分であれば部位欠損、内蔵欠損が起こり、目的地を想像しきれなければ地面の中に転移して生き埋め……実際にあった事故だ、怖くて使えないだろう?
空間収納に関しては出来る人もそれなりにいるが燃費は最悪、使ってるだけで魔力を消費するし限界まで絞ろうと画策すればそもそも収納出来る容量が少なくなる、便利ツールはそう簡単には使えない。
他にももっと面倒臭い時魔法や転生者特有の固有魔法がある、が、これは後々。
閑話休題
「ダスクード君とカレンちゃんはね、ちょぉっと私信者過ぎるから私に気に入られてる君が羨ましいんだろうね、仲良くしてあげて?」
「嫌われてるのに仲良くしろとは矛盾が過ぎるぞ」
「ほらほら、好きの反対は無関心って言うじゃん?大丈夫、まだ好きになる可能性はゼロじゃない!」
いっそのこと無関心の方が助かる……。
「あー、今の目は無関心の方が助かるって考えてた目だなぁ?ホント、君ってひねくれてるし常にピリピリしてるよね、もしかして生理?」
「死にたいならそう言えよ、それとシャルにそれやったらてめぇを司法局にセクハラで訴える」
「冗談だよ~♪シャルちゃんはそもそもピリピリしてる時は無いしね!……もしかして生理が来てない……?
「死ね」
昨日のように頭を潰そう、と思ったが目線の先に女神はいない。
「危ないなぁ、空中で頭が失くなると流石に面倒なんだよね」
「……」
「おー怖い怖い。シャルちゃんのことは分かってるって、ちょっとした君と私との冗談混じりのじゃれあいじゃないか」
シャルロッテがいつもテンション高めなのには理由がある。
ここで話すことではない。
「さて、じゃあその地面を背にしての等速直線運動は終わりにして、行くよ」
「…はいはい。ご命令のままに、女神サマ」
差し伸べられた手を取り、二人は転生門へと転移した。
◇◇◇
「お、帰ってきた」
「ユウキ君、1番街に帰るつもりだったみたいだよ」
「やっぱり!サボりは良くないよ?」
「……どうやら歓迎されてないようだし?良いだろ、別に」
驚きで固まってる人が多かった。
女神が直々に迎えに行った事に対してか、そもそもダスクードの一撃で無傷な事か、何れにしてもその場の殆ど全員の口が半開きになってる様は滑稽だった。
「……貴様、何者だ?」
ダスクードが先程とは違う様子で問いかけてくる。
なんというか、不気味なものを見るような目で。
まぁいい、問われたならば答えよう。
「俺が何者か、だって?それは勿論、『転生勇者史上最弱』の落ちこぼれだよ」
せいぜい虚言に惑えよ。
それを俺が告げるにはまだ早すぎる。
時計の長針が頂点へと至る、此度の転生者のご登場だ。
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