第二話 資金の出所

 さっさとバトルに入りたいので更新。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 嵌められた。

 完っ全に嵌められた。


 シャルの奴……俺を働かせるためにここに連れてきたな!?


「ふむ、別に構わんが……実力面で足りているのか?」

 おい筆頭ジジイ、俺の意思を無視してサラッと話を前に進めるんじゃねぇ、バックだ!バック!


「いやぁ、俺はあまり武闘派じゃないんで……レベルも100だし」

「100しか無いのに500の俺と戦えてる時点でおかしいだろうが」

「んー……?これもしかして全員グルか?」

 目元に手を当てて『我関せず』といった感じのグリムは除く、だが他は肯定も否定もしない。

 何より、筆頭ジジイが肯定派に近いっぽいから否定の必要もないのだろう。


(不味い不味い不味いっ!!)

 株主優待、不労所得万々歳の俺の生活がここに来て脅かされてる!?


「他ならぬ『シャルロッテ女史』の意見だ。肯定したいが……当人はどうしたい?」

「ジジイ……卑怯だぞおい」

 シャルロッテを強調し、俺に問い掛けるジジイ。

 ここで俺が否定すればジジイの中で俺は今の司会である『シャルロッテの正義』に反することになる。

 今度はウィルではなく俺の首に刀が飛んできてもおかしくない。

 本気で殺り合うのは勘弁願いたい。

 俺が覚えてる限りのジジイの身分証はこうだ。


 名前…バルト・オルター

 職業…剣聖

 レベル…980


 そう、人類の最高到達点と言われているレベル999の数歩手前まで来てるのだ。

 多少の老いはあっても積み上げられたレベルの力は大きい。


(……詰みか)

 めんどくさい、あぁめんどくさい、めんどくさい。


「……シャル、俺をどうするつもりだ」

「勿論!私と同じ全部門担当だよ!君がいれば百人力だよ~」

「レベル100だから、ってか?笑えねぇよ畜生が」

 よりにもよって馬車馬のように働いてる全部門担当かよ、シャル含めて三人くらいしかいない社畜部門め……。


「ん゛ん!……では採決を取らせていただきます。ユウキ殿に教員資格を与えることに賛成の方は挙手を」

 ……九人挙手、おいシャル、お前は挙手しても意味ねぇぞ、数えねぇからな?


「……このような議題の場合、当事者は含まずに採決、なので全会一致でよろしいですね?」

 そう、結局こういう議題は当事者に抵抗は許されていないのだ。

 ジジイが否定すればまだ可能性があったが、どうでも良いorやれば良い、ならアウトだ。

 今回はアウトの例だ。


「では全会一致により、ユウキ殿、貴殿を我が社の『正義の味方課』教員として任命する、これは総会の意思である」

 どうしてこうなった……




 ◇◇◇




「シャル……何人買収した?」

「ウィルさんとラスペルくん以外」

 殆ど全員だった……逆にどうしてその二人だけ余したんだよ。


「多分ね~、あの二人以外は君の事そんなに嫌いじゃないと思うよ?だから私の策に乗ってくれた」

「ありえねー、絶対嫌がらせだ」

 夜、俺はシャルと共に豪勢な料理を囲んでいた。

 ここは一番街のホテル・スペリオーレ、その頂点である百二十階。


 天国には五つの街がある。

 一番街、ここは転生先で最も成功した奴らが住むことが出来る、要は上澄みだ。


 二番街、まぁそこそこの成績、ラスペルやその他株主が住んでいる区域。

 例外としては筆頭ジジイと生え際ジジイの二人は一番街だ。


 三番街、俺が毎日通ってる洋食処アドリーヌがある区域。

 THE・普通といった感じの転生者が住む区域。

 一番広く、一番人口も多い。


 四番街、ここはあまり人が住んでいない、何故なら転生者が最初に訪れ、ここに詰め込まれるからだ。

 転生者関連の企業もここに本社を構えている、『希望の世界』も例外ではない。


 五番街は……、また今度にしよう。

 あそこはただの魔境、行く価値もない。


 さて、俺達がこんな豪勢なホテルで食事を出来る理由、それはシャルロッテが稼いだ金にたかっている……わけではない。


「……ねぇ、いつも以上に視界がボヤけるんだけど。煙出しすぎじゃない?私への当て付け?」

「それもある。が、月末限定で俺にも仕事があるんでな」

 シャルロッテの言う通り、1メートル先の相手の顔が見えないくらいにこの部屋は煙に包まれている。

 グリムに止められ、吸うことを断念した煙草だ。

 これは無臭だが煙は際限無く出る、使用者の意思のままに。

 目を凝らして目的の料理を探す様子のシャルロッテを見て少し溜飲が下がる。


「……来たか」

 背後に気配、しかし見知った気配なので警戒の必要はない。


「お食事中、失礼します。今月のご報告に参りました……『オーナー』」

 俺の背後でわざと気配を察知させながら煙に紛れて登場したのはこのホテルを実際に経営している女支配人。


 そして俺が『オーナー』と呼ばれたのは聞き間違いではない。


 俺が、俺こそがこのホテルを建て、一年も経たぬ内に一流へとのしあがったその経営者だ。




 ◇◇◇




 俺が転生してからまず考えたのは天国での過ごし方だ。

 転生先である程度自由を謳歌し、死後も快適に暮らすにはまず資金が必要だと考えた。


 そうして一等地にちょっとした会社くらいなら建てれそうな金額が集まった頃に考えたのは何をするかだ。


 具体的には俺がボーッとしてても金が入ってくるシステムの構築だ。

 考える時間ならば人の一生分はあった、十分だろう。


 そうしてある時思い付いた。


 それが当ホテルの仕様、『課金制』だ。


 一般的には俺のホテルは『一番街にしては格安』で通っている。

 が、実際には部屋を決定し、宿泊している最中がこのホテルの稼ぎどころだ。


 元々が他の一番街のホテルの少し下程度のサービス、しかしとあることをすればそれは一気に最上級へと歩み始める。

 追加支払いだ。


 ホテル料金に比べれば微々たる金額で部屋内にある風呂が貸し切り露天風呂へと変貌、同じようにそれなりの食事が今目の前にあるような高級食材も使われた豪華な食事やフルコースへと変貌。


 そうやって追加料金を支払い続けた者は結局他の高級ホテルと同等かそれ以上の値段での宿泊となってしまう。

 我慢強い者ならばお得のままでいれる、だが人間というのは欲深い生き物だ。


 一度課金後の最上級の環境を味わってしまえば戻るのは中々難しい。


 だから事情を知っている者達はこのホテルをこう呼ぶ。『欲深者の墓場』と。


 そんな不名誉な名で通ろうと知ったことではない。

『俺はお前達に望む物を与えた、出すものは出せよ?』と言うだけだ。




 ◇◇◇




「今月の収益は先月の微増、新規のお客様が多かったのを見ると今月は一番街レベルの功績であの世に逝った方々が多かったようですね」

「そうか、新たに沼に嵌まってくれる人が居て何より。これからも上客になってくれることを祈ろうか」

 新規の客のパターンは主に二種類、一流と呼ばれてるホテルに泊まってみたいおのぼりさんのパターンと新たに俺と同類……転生後の生活を優雅に過ごしたい者としてが一番街に拠点を置こうと考え、生活基準を見たくて来るパターンだ。

 前者はビビって追加支払いに手を出さないが後者は必ずと言って良いほど手を出す。

 そして後者は落ちぶれるか、これを維持するために何らかの金策に走るか、だ。


 搾取される側よりする側の方が強いのは世の常、それは天国だろうと変わらない。


 ちなみに、シャルロッテが居るが問題はない。

 本当に重要なことは暗号化して伝える事にしてある、その暗号も独自のもののため、見破られる事は無い。

 何より、シャルロッテはそういう事に頭を使うのが苦手だ。


(戦闘になると途端に頭の回転早くなるから『バカ』と吐き捨てる事が出来ないんだよな、こいつ)

 彼女は今、彼女の顔が隠れる程の大きさの甲殻を持つカニの爪の身をほじくり出して幸せそうに食べている。

 魚介類全般が彼女の大好物だ。


 ちなみに、支配人の裏切りの心配だが……これは全くない。

 転生者時代に共に過ごしていた仲間、というのもあるがそもそも魔法契約書で縛ってあるのだ。

『被契約者は契約者の利に反する行為をした場合、即座にこの書は燃え尽き、被契約者に死が訪れる。それはこの書を処分した場合も該当する』という内容で。


 被契約者に不利すぎる内容だがこの契約を二つ返事で受け入れた彼女に限って裏切りはない。

 勿論、俺もこの書を意味もなく処分したりしない。


「……以上で報告を終了します。他に何かございますか?」

「無い。俺は外に出る。もしシャルが寝てたら彼女の部屋まで運んでおいてくれ。酒も入ってるから多分自力で戻れない」

「畏まりました」

 その他諸々の報告が終了した後、俺は食事も軽くで済ませ、外出することにした。

 シャルは気づいてるのか気づいてないのか分からないが放っておいても大丈夫、ここに彼女を害する意思を持つ者などいない。

 もし居たとしても問題はない。

 自由な彼女を縛れるものなど彼女の好物くらいしかないのだから。




 ◇◇◇




「お、こんばんは。常連さん、今日は客人が来てるけど知ってるかい?」

「あぁ、約束してある。通してくれてありがとう」

「構わないさ、食事はいつもので?」

「よろしく頼む」

 場所は変わって三番街、洋食処アドリアーヌ。

 夜は裏口から入り、いつも通り個室スペースに通される。

 表から入らないのは夜、俺が煙草を咥えているからだ。


 基本的にアドリアーヌは全席禁煙。最初、煙を一切出さない状態で入ったときに店員に止められたため、店長と話し合った結果、このような形になった。


 煙が出ていないとはいえ俺の配慮も足りなかったが俺としても夜間でも煙草を吸えないのは少々不都合がある。

 そう、例えば……


「こんばんは、酷い匂いだけどそれ、私への当て付け?」

 この女のような奴を見分けるために必要だからだ。

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