第15話

それからは


音楽室から、ピアノの音が


先輩のクラシックの音楽が流れてくることはなくなって…



私の思っていた通り


先輩との接点が、なくなっていった



私は先輩に

ピアノと言う接点がなければ、きっかけがなければ、話しかけられもしない意気地なし



先輩が伴奏だったから


先輩が、クラシック音楽を弾いてくれていたから


私は先輩と一緒に過ごせていたんだ




あんなに接点があったのに、私は先輩の連絡先すら聞けなかった




「…あ」



スポーツバッグに入っていたそれ



まだあった


まだあった、先輩との…接点が…




一月ももう終わりごろ


私はそれを握りしめて、昇降口で先輩を待ったんだ



「あれ、冬至ちゃん」



昇降口で靴を履いて端の方に突っ立って手遊びをしていた時、聞き覚えのある、私の名を呼ぶ声


はっと思って振り向く


先輩が現れた



でも、友達と一緒だった



…あ、気まずい…

どうしよう

友達と居た時の対応まで考えてなかった…


私は戸惑い、考えていると


その友達は先輩を肘で小突いて笑うと手を上げて、じゃあね、と先輩に言うと先に靴を履いて帰ってしまった


「ああ、じゃあ」


と先輩はその友達に言うと


こちらに向かってきた



あ、あら…




「どうしたの?誰か待ってるの?」



物腰の柔らかい、優しい、いつもの先輩の声



「あ、あの先輩これ…」



そう言って、私は先輩に借りていたものを返す


ショパンのCD



「…あー、そうだ、貸してたね

忘れてたよ


ありがとう



気に入った曲、あった?」



「ショパンの…エチュードかなあ…」



「そっか、好きな曲がまた増えたね」



そう言うと先輩はそのCDを受け取った



「…一人?」



先輩が言う



私は小さく何度か頷いた



「一緒に帰る…?」



私は小さく一度、頷いた





夕闇の帰り道、私たちが乗る電車が来た



ヘッドライトを光らせて、甲高い音をさせながらホームに滑り込んでくる



電車が停車すると、プラスチックが焦げたような独特の匂いがした



扉が閉まる



私たちを乗せた電車はゆっくりと発車した




人の少ない車内



二人、ガラガラの座席に並んで座る






「この曲も、好きなんだよね」


唐突に先輩がそう言うと、カバンからイヤホンを取り出し片方を取って、はい、と私に差し出した


え?


イヤホン…聞いて見てって事?



私はそれをゆっくり受け取り、左耳にはめた


すると、先輩もそのイヤホンを右耳にはめる



先輩が携帯のボタンを押すと流れてくる、聞き覚えのある曲




あっ…これ…




先輩がいつの日か弾いていた曲…




この曲って…




確か、エチュード10‐3ってやつだ




先輩の携帯の画面にタイトルが書かれていた




「別れの…曲」


独り言ちる



すると先輩が言った



「ショパンの曲だよ」



知ってる…



だって、先輩に出逢ってから色々な作曲家のクラシック音楽を聴いたが、聞いたことがある曲だったのもあるけど

曲の雰囲気的にこれはなんとなくショパンっぽいな…なんて聞いた瞬間思っていたから



それくらいに、クラシックは私にとって耳馴染みのあるものに変わっていた




そんな



耳馴染みになったのに…

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