第11話

先輩と一緒に無言で帰る


さっきの返事…


『冬至ちゃんは…?好きな人、いるの?』



言いそびれちゃったな…


先輩が好きだ、って…


もじもじとする


でも…今突然好きって言うの変だし…恥ずかしいし…

私からさっきの話も振れないし…

先輩無言だし…

話しかけにくい雰囲気だし…


そう思っていたら駅に着いていた


電車に乗って、隣同士座った


でも


先輩の好きな人って…

探しているって…


…誰なんだろう


探してるって事は…違うクラスの人って事…なのかな…

若しくは違う学年?

いやでもそうとも限らないし…うーん…


先輩が違うクラスの人や違う学年の好きな人を探している様子を想像したらテンションが下がった

…私じゃない、他の女の子を探している先輩


あ、…でも



『嬉しかった…』


『そんな…俺の好きな人が気になるのかって…思って…』



先輩さっき嬉しかったって…言ってた


…もし…同じクラスの子や他のクラス、学年の子が好きなら…嬉しかったって…言うかな…



それって…


私に…好きって思われてるのが…嬉しかった…って事…?




いや…


それ私が先輩を好きだって事…先輩にバレてるって事じゃん!


えなんでどこで!?

やっぱり気になる人聞いちゃったからかなあ…

意識してたのバレバレじゃん…


うわあ、恥ずかし…

いや待てよ…もしかしたらなんでそんな事聞くんだろうって意味かも知れない…だから好きな人を聞いてきたのかも…

でもそしたら嬉しかったって何だ?

「駅前のさ、レンタルショップ寄って行かない?時間、大丈夫?」


「あ、はい!大丈夫です!」


私は唐突に先輩にそう言われて考えていた事が飛んだ



駅で降りて、楓を借りたCDショップにまた寄った




「これこれ、これも聞いて見て」


渡されたのは、ベートーベンの…



「ソナタですね

私は8番の第三楽章が好きです」


「え…」


先輩はそんな私の言葉に、驚いた顔をした



「もしかして、知ってた…?」



私は笑顔になって首を横に振った



「前までは、知りませんでした


一生懸命、覚えたんです

先輩が、クラシック好きだから


先輩の、楽しそうにピアノ弾く姿見てたら…


私も楽しくて…


先輩が好きなクラシックよく聞くようになったんです


それで…いつの間にか、クラシック好きになってました」




先輩は真剣な表情で、少し目を見開いてまだ驚いているような顔をしている




「先輩が言うように、クラシック音楽を聴いていくと


何処かで聞いた事ある曲っていっぱいありますね


何処とはないけど、何処かで一度は聞いた事ある曲


この曲はショパンだったんだ

この曲はベートーベン、この曲はモーツァルト…そんな発見からこの曲はこう言うタイトルだったのか…とか…


日々色々な事が知れて楽しいです」



「そっか…」



先輩の物腰柔らかい言葉と、少し、悲しそうな瞳



レンタルショップを一通り周り、お店を出た


先輩は無言で、先に歩き出す


さっきから、なんか先輩の様子が変だ

何も喋らず、無表情


「先輩…


どうしたんですか…?」



後ろ姿の先輩にそう言うと、先輩はぴたりと立ち止まった


私は不思議に思ってゆっくり先輩に近づいて行った

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