第10話

翌々日


洗濯して乾いた先輩の自宅から借りたタオルを、放課後音楽室に持って行った




「ありがとう」



そう言って、先輩はタオルの入った手提げを受け取った



「一昨日はあの後大丈夫だった?雨…」


「あ、はい!全然!そのタオル、…のお陰で、余裕…でした…」


最後のセリフを言うのがなんだか少し気恥しくなって、弱弱しく、細切れにごにょごにょと呟くように言ってしまった


タオルに目をやった時に、一昨日の先輩の言葉や情景が頭に浮かんできてしまったから


目の前に先輩がいるのに、そんな事を思い出して益々恥ずかしくなってしまう…


「そっか…」



その後、お互い無言になってしまって、何とも言えない空気が漂った


何か…何か喋らないと…!

先輩の事ばかり考えてしまう、妄想してしまう…


「せ、先輩は気になってる人とかっているんですか!?」



っあ…



しまった…!先輩の事を考えていたら、つい思っていた事をそのまま言ってしまった…


ヤバいヤバい…やってしまった!!


うわー!何やってるんだ私!こんな質問、先輩の事意識してるってバレバレじゃん!!恥ずかしい…もう最悪…

勝手に好意を寄せられてキモイって思われたらどうしよう、取り敢えず訂正して…


「間違えま「好きな人はいるかな…」」



え…!?



次に先輩が言った言葉を聞いて、自分の耳を疑った


す、好きな人は…いる…!?



思わず私は静止して先輩の次のセリフを待った



「っふ、あっはは、なにその顔」


そう言うと先輩は急に笑い出した


「え…?」


「いや、いやあごめん…ついつい…おっかしくて…」


むう…


笑い続ける先輩に気恥ずかしいような、ほんの少し腹が立つような気持ち


「…もう、バカにして…」


私が口を尖らせながら言うと


「何、怒ってるの?」


と、先輩は半笑いで私を見ながら聞いてきた


「別に…そう言うわけじゃ…」


ない、と言おうとした時、先輩が手を伸ばし私の頭を撫でて来た



ビクッとする身体



「ごめんごめん

そんな怒んないで


嬉しかった…」



え…?



先輩の言った意味が分からず、私は思わず先輩を見た



「そんな…俺の好きな人が気になるのかって…思って…」



先輩は私の頭を撫でていた手をおろして言った



笑顔を残して、瞳は愁いを帯びている先輩の顔



ドクン、ドクン、とうるさい心臓の音が聞こえる


こんな大きな音なら、もしかしたら先輩にも聞こえてるんじゃないかと冷や冷やした



「…気付いたら…その人を探している時があるし…多分…好きなんだと思う」



「え…」


探している時…



「冬至ちゃんは…?好きな人、いるの?」



「あ…」



顔が赤くなっていく



「わ、私は…」



私は



私は先輩が…



先輩が…




「私は…」


「あら立川くんピアノ今日はもう弾いてないの?」


タイミングがある意味いいのか悪いのか、音楽の先生が入ってきた



「あ、ああ、今日はもう帰ろうかと…」


先輩は私からさっと離れると、後頭部を押さえながら会釈をした



「あら、梶原さんもいたの

ん?梶原さん伴奏じゃないわよね?」



「あ、先輩に借りたものを返そうと思って…」



「冬至ちゃん、行こっか」



先輩が帰宅を促したので、私は先輩と音楽室を出た

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る