第8話
誰もいない、静かな部屋
先輩のピアノの音が響く
そして外から
雨どいを伝って落ちた雨が
地面や、出来た水たまりに当たって
ぽつ
ぽつ
と、一定のリズムで音を刻む
ショパンも
あの島で
こんな情景を見ながら、この曲を作ったのだろうか…
ショパンはパリから離れ、その時恋人であった女流作家ジョルジュサンドと共にスペインのマジョルカ島に行く
うるさいパパラッチを避けて、愛の逃避行…なんだかそんなタイトルもロマンチックに感じる
ショパンは元々身体の弱い人で…その為以前の恋人、マリアと言う人とは結ばれることがなかったみたいだが、スペインの逃避行もショパンの静養の為みたい
最終的にはショパンの悪化する病を伝染病と恐れた民衆により、二人は修道院で過ごすことになる
雨季に入り、雨が降り続いているスペインのマジョルカ
そんな状況で出来たのが
プレリュード15番
雨だれ
と言う話だ
クラシックの歴史には興味なんてなかった
でも
先輩が好きな曲だって言うから
その曲が、どんな曲なのか気になった
だから、図書館で音楽の歴史の本を借りて読んだんだ
クラシックを知れば
先輩に近づけると
先輩を知れると、思ったから
あなたをもっと知りたい
ひと際高く、目立つ音
それからゆっくりと消えていく音たち
ピアノのメロディが終わる
「先輩
私、この曲が好きです」
先輩と
同じ、この曲が
私も好き
先輩はピアノの椅子に座りながら微笑んだ
「でも、ショパンの恋人ジョルジュサンドは、15番を雨だれとは言ってないみたいなんだよね」
「え…」
先輩がまたピアノを弾き始める
さっきよりはかなり暗いイメージのある曲だ
鬱々感が増す
不安な気分になってくる
でも、音は強くはっきり、しっかりとした音がする
「この6番が、雨だれだそうだけど…
世間的に有名な雨だれは15番だよね」
弾き終わると先輩が言った
そうなんだ
でも6番も15番も…私は両方素敵な曲…と言うか、何かこう胸にずしっと来るものを感じたというか…
重みを感じた
そう、印象に残る作品だ
「そうだ」
先輩がそう言うと席を立って、ピアノのある部屋から隣の部屋へと歩みを進めた
扉を隔てて地続きになっているその部屋はリビングのようだった
そこの一角には私の身長の半分以上はあるだろう、大きなスピーカーが二台設置されていて、真ん中にデッキがあった
先輩はそのでかいスピーカーの隣にあった棚から何かを取り出した
「はい、ショパンのCD」
「あ…」
「前言ってたショパンの名曲と呼ばれる曲が入っているのもあるから、聞いてみると良いよ」
これとこれとこれかな…と先輩がCDを選びながら独り言を言っていた
「はい
返すのはいつでもいいから」
私はおずおずと手を伸ばすと、先輩の手からそのCDを受け取った
「あ、ありがとうございます…!聞きます!」
先輩が笑った
トクン、と胸が鳴る
「あー…もうこんな時間かあ…」
先輩は伸びをしながら言うと、そろそろ行こうか、と言った
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