第7話

急に天候が悪くなった空


ぽつりぽつりと落ちてきた雨粒


せめて先輩の家に着くまでには本降りにならないといいなあ…



そう思いながら




雨はその途端強く降りだして、アスファルトをあっという間に黒く染めた



ぴかっと閃光が目の前を走り、その後少しして雷鳴が響いた


「ッキャー!」


と、遠くで誰かの声が聞こえた



「来て」


先輩はスポーツバックを頭にのせて、雨をしのいでいるのだろうか?


そんな様子を見ながら先輩の後ろをついていった



少し走っているとスポーツバックを頭から下ろした先輩が

私の方を振り返って笑った


「すげー雨!」


「あははっ!」


私もそんな先輩につられて笑った


雨なのに


何故かはしゃぐ先輩

無邪気な子供みたいで、なんだか温かい気持ちになる







先輩の自宅に辿り着いた


「濡れたー…」


そう言って頭を犬みたいに降って雨を払う先輩


玄関を入ると広い吹き抜け

それと同時に他人の家独特の香り


何とも言えない空気感に、玄関を入ったはいいがそこから身じろぎ一つできずに固まったまま、自分の身体から地面に滴る雨のしずくが作る、水滴の模様をぼんやりと眺めていた


外は薄曇りで玄関の扉の小さな擦りガラスから光が届く程度だった



ふいに、先輩は私に手を伸ばして、頬をなぞった


私は急にの事でびっくりして固まってしまったが、先輩は私の頬の水滴を優しくぬぐってくれているようだった


お互い、目と目が合う


先輩の動作が止まった



先輩の濡れた素肌


私を見つめる瞳


一滴、先輩の首筋に雨粒が流れて行った




なんだかこの雰囲気…


キスする時みたいだな、なんて


何処か他人事のように冷静に分析する自分がいた




ボーン…



吹き抜けの廊下の中間にあった掛け時計から音が鳴る



先輩はハッとしたように、目を閉じて顔を手で覆うとついていた水滴を払った




「…ごめん…ちょっとタオル持ってくるね」



彼はそう言うと靴を脱いで吹き抜けの廊下を通って奥に消えた




玄関扉の擦りガラスに雨が打ち付けられては、水滴が落ちていく

それを繰り返していた



私の頭の中で先輩のあの曲が響いてくる




プレリュード15番



ショパン


雨だれ










「タオルどうぞ」



「先輩」



後ろからタオルを差し出してくれた先輩を振り返りながら見上げた



「聞きたい曲があるんです」

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