第2話――出会いは突然に

「ちょっと、オイ!そこ!早くどけよ!!」


えっ、何事…?


「プーーーーッッ!   キキーーーッッッッッッ!!!」


あ、やばい!ひかれる?!死んじゃう?!よけなきゃ!


あっ、腕を掴まれたっ…?


「スッッッーーー……」


*******************************************


新宿三丁目の交差点にて。


「大丈夫?」


声をかけられた。

正直、今はパニックと安堵で何も感じられない。

「…いや、そもそもこのシチュエーションで 「大丈夫です!」 って言える人って、いるの?」などと可愛げのないことをわずかに考えながらも、


「ええ、大丈夫で…す…」


と返しておいた。

と言いつつも、声をかけてきた相手が全く知らない人なので、顔を見てみる。



ちょっと天パっぽい髪なのに、ウェーブは規則的で、手入れされているな、と思う。

ブルーのシャツにベージュのパンツ。なんとなく隙のない格好だ。

切れ長の目に白い肌。

背も高い。180cmはありそう。



…割と、私のタイプの人だ。



いや、そんなことを考えている場合ではない。


「ああ、それなら良かった。あやうくひかれるところだったんですよ。危なかった…。」

「はあ…」

「具合、悪いですか?救急車呼びます?」

「え、いや…」

「それなら、…どう、せっかくだから、お茶しません?こんなふうに誰かを助けたのって初めてですし」

「は?うん…、…え?」


私は、とりあえず、あなたについて行くことにした。


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「ええと、シトラスティーを一つ。

 僕は、うーん、何がいいかな…。じゃあ、ブラックで。いつものを」


私とあなたは、とある喫茶店に来ていた。

夜10時をまわるところだというのに、店内にはかなり人がいる。

ただ、こんな時間に来ているということもあり、どの人もギラギラして、私の周りにはあまりいいないような人種の人達にも見える。


「いやあ、本当にびっくりしたよ。だって、君がふらふらと交差点の方に歩いていくからさ、

 赤信号だって言うのに。それで色んな人が君を呼び止めたんだけど、聞こえてないみたいで。

 それで、僕が君を引っ張ったんだ」

「あ、そうなんですね」

「うん、だけど本当に安心したよ。無事で良かったね」

「ああ、ありがとうございます」


一瞬、お互いに黙り込む。

店員さんが、飲み物を運んでくる。


「あ、この紅茶、美味しい!」

思わず呟いてしまった。

「そうか、良かった。ここのは本当に美味しくてね」

あなたが微笑んだ。


「そういえば、お兄さんは、なんであそこにいたんですか」

「ああ、バイトの面接の帰り道で」

「ずいぶん遅い時間なんですね」

「まあね…。

 ところで、君、いくつ?大学生?」


なんで私が大学生に見えるの?私バリバリの高校生なんですけど、と思ったが、今自分が私服を着ていることを思い出して(私の学校は私服通学なのだ)、


「いや、19歳。専門学校に通ってて」


と、思わず嘘をついてしまった。

別段理由はないが、なんとなく背伸びしてみたかったのだと思う。


「そうかー。どうりで服装がオシャレだと思ったんだよね。僕、二十歳はたちで、大学で数学勉強してて」

「えー、お兄さん、すごいですね!私、理数系全然だめで。数学とか教えてほしいくらいです」

「え、ほんと?なら、教えてあげようか?

 …あ、でも君は専門学校に通ってるから、あんまり関係ないか」


嘘がバレたかな…、とちょっと気にした。


「あ、言われてみればそうですね。…でも、今日はありがとうございました。救っていただいて」

「ああ、もうこんな時間か。」

「お会計、助けてもらったお詫びに、させてください」

「いいよ、僕が払うから」

「え、でも」

「いや、僕が払う。でも、一つお願いがあって…」

「なんですか?」



「一晩、一緒にいてくれないかな?」



あのときこれを聞いたときは、正直ちょっと引いた。


身の危険も感じたし、あそこでお金を払って逃げてしまえば、何も起こらなかったんだと思う。


でも、私は、あえて危険な道を選んでしまいたい、と思ったのだ。

自暴自棄になったわけではないが、なんとなく、なるがままになってしまいたかったのだろう。




「…ええ、いいですよ」







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