プレイバック

清水希時

第1話――プレイバック!

 土砂降りの中、私とあなたは車に乗って高速を走っていた。トンネルに入ると、ナトリムランプの淡い明かりと、圧迫空間独特の距離感の掴めなさにめまいを感じた。いや、めまいの原因は他にもあるはずだ。


「大丈夫?」 助手席のあなたがたずねた。

「何がですか?」

「…君のことを傷つけたとしたら、悪かったと思って」

「いや、別に気にしませんから…」


 そう言って、また沈黙が続いてしまう。

 いまさら話すことも、もうない。ただ、この瞬間、自分がいまさら何をしても、これからの私達の運命が変わらないであろうということに、小さく絶望していた。

 

 あと30分ほどでであなたの家に着くはずだ。でもその先、どうしよう。


 *************************************



「ねえ〜、最近暑すぎん?こんなに暑いと勉強する気失せるよね〜」

「それな。でもさ、まだ6月だよ?これからどうしてくれるんだよ〜」

「だからまゆもハンディファン買いなって!あれ持つと、一気にJK感でるよ。

 まじでおすすめ」

「ありがと、でも美咲みさき、今日代々木から帰るんでしょ。私新宿の方まで歩くから」

「え〜、じゃあもうバイバイだね」

「うん、明日学校で会おうね、バイバイ」


 夜9時半。新宿。塾帰り。


 美咲と別れて、一人で歩く。


 中学入学以来、この塾に通い始めて早3年が過ぎた。

 中高一貫校に通う私は、小さい頃から塾漬けだったから、そんなに勉強することは負担にはならない。ただ、部活に勉強に忙しい私にとっては、ファミレスで友達としゃべったり、カラオケで休日を過ごすと言った「いわゆる青春」を送っているかといわれると、ちょっと微妙で、なんだか味気ないかもな…、私のJK生活って、こんなもんか…、と考えてしまうこともある。


 こんな「つまらなくて平凡」な自分を、ちょっと変えてみたい…。

 自分にしかわからないこと、探したい…。


 

 そんなふうに思っていた矢先のことだった。

 あなたに出会ったのは。


 とりたてて取り柄のない私に、一生かけても取り除けないような深い傷と感動を与えた、あなたに出会ったのは――。



 


 




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