歩く災害『神代秀気』

自由時間を終え、朝食を取ったのち、俺たちは再び、地下訓練場へとやってきていた。到着した俺たちがまず渡されたのはそれぞれの背丈にあった木剣だった。


興奮して木剣を振り回し始める男子を女子が白い目で見、委員長が宥め、その場を収める。


「皆にはこれから三日間に渡って剣の指導を行う。基礎的な体力の底上げを兼ねて、走り込みもしてもらう」


運動が嫌いな一部の生徒が不満の声を上げるが、教官モードとなったシュバリエ団長が威圧して鎮まる。


「もちろん。戦いにおいて大事なのは魔法が大きい。身体の強化も魔法で行うことになる。ただその前に、基礎的な体力の底上げも必要不可欠だ。上げる身体能力が大きければ大きい程な」


ご最もで。

けど暴れていた神無月のように魔法が好き勝手に使れば身体強化を行う必要もないのでは?


「魔法だけじゃダメなんですか?」

「魔属や悪魔は私たち人間に比べて魔力を感知する精度が優れているうえに、身体能力も高い。魔法を乱打するだけで勝てるほど魔属との戦いは甘くないんだ」


マジか。

ってことは魔属はこっちの動きを先読みしてくる上に、俺たちより身体能力も高い、と。

……なんだその無理ゲー。


「騎士団として動くならば、もちろん後衛、前衛、中衛とに分けることは必要になってくる。ただ君たちの場合は中位魔族や上位魔族、悪魔いずれは『魔王』と言った並びに『個』として強力な相手と戦ってもらうことになる。ある程度は遠接、近接の両方をこなせないと自らの命を削ることになると思って欲しい」


その言葉に未だに小声でブーブーと文句を垂らしていた連中も押し黙る。


『魔王』が顕在な今も絶大な待遇を得ているのだ。

それこそ魔王を倒した後は将来安寧と豪遊が確約されるといってもいい。




ただその分、戦死する可能性も大いにある。

それでいて、魔族という、人間と似た存在を『殺す』覚悟も必要になる。

最初にリタイアして王城を去ったクラスメイト達の方が利口な判断だと言える。


が、元中二病の俺としては非日常とか大好きだったからな。

例え戦死することになったとしてもこの瞬間を楽しんで、変わり続ける日々は楽しくて仕方がない。


考えても見て欲しい。

自分の近くで神秘の力がぶつかり合う、血湧き肉躍る戦いが繰り広げられるんだぜ?


そんなの、興奮して仕方がないじゃないか!?

俺はそれで死んでも後悔はない。

一度きりの人生。

図らずも異世界召喚されてしまったなら死ぬその時まで楽しまなきゃ、損だそん。


騎士達が各格に木剣を渡していく。

そこからは剣を振り、騎士や団長が動きの無駄や体の動かし方を教えていく。


上段、中段、下段、袈裟斬り、振り下ろし、振り上げと一通り行われる頃には皆がへばっていた。


神城や雄吾といった日本にいた時から運動神経が良かった連中ですら肩で息をしている。


剣は手首のスナップが大事だし、急激に筋肉を伸び縮みさせる剣の訓練は日常生活でも筋トレのメニューでもほとんどない。


慣れない体の動きを続けたからか、皆両手が悲鳴を上げている。

この休憩時間が終わったらこれから走り込みだ。

これは元運動部でも辛いだろう。


ん、どうしてそんなに木剣に詳しいのかって。

……中二病時代にちょっと木刀はかじったんだよ。


だってほら! 刀は全人類男子のロマンだろ!?(偏見)


「星宮、お前、凄いね」

と俺が一人、刀のカッコよさを語っていると男子生徒が話しかけてくる。

クラスの中心人物ならば覚えているが、こいつは…… だれだっけ?


「まさか、俺の事、覚えてない?」

「そ、そんなことないぞ。うん。ほらあれだろ同じクラスの鈴木さんだろ。よく覚えているともさ。うん」

「いや、ぜんっぜん違うけど」


なん、だと?

そんな良くも悪くも平凡で、パッとしない見た目をしていたら大体、鈴木とか佐藤とかそういったありふれた苗字じゃないのか?!(失礼)


「大鳥だよ! 同じクラスの大鳥明おおとりあきら! ほら、『変身』してた時に適性検査であったでしょ!」

「あ、ああ。そうだな。分かってたぞ。ああ」

「いや、分かってたなら最初から当ててよね」


ぐぬ。こいつ、的確な所を突いてきやがるぜ。

それにしても変に知ったかぶろうとしてしまうのは中二病が抜けてないのかもしれない。


明日から―― 今から気を付けて直していこう。


「今度からはちゃんと覚えてよね。で、話を戻すけど星宮。なんでそんなに余裕そうなんだ。息もほとんど切らしてないみたいだし」

「それはちゅう……」


危っぶな!

なにを素直に答えようとしちゃってるんだ俺は。

「中二病時代、近くの公園に竹刀袋を持ち込んで、爽やかな剣道部を演じながら木刀や竹刀を振り回しました。アハハ」なんて口が裂けても言うわけにはいかねぇしぃぃぃぃ!


「あ、後ろめたい事なら別に大丈夫だ」

途中で言葉を止めて、押し黙る俺を見て何かを察したのかな苦笑いで大鳥がそう返してくる。

ここでグイグイ来るタイプだったら余計に質問攻めしてきただろう。

大鳥がそういうタイプじゃなくてマジで感謝なんだわ。


「でもキツイよな。授業の半分以上が体育みたいなものだもん。これから命を掛けて戦うことになるからそれも当たり前かもしれないけど。ぼく―― じゃなかった。俺達のような陰キャには答えるよね」

「お、おう」


確かにそれはその通りである。

中二病時代は、はっちゃけて変な運動をすることもあってか、帰宅部でありながらそれなりに体力も運動神経も悪くなかったのだが、中三になってからはすっかりヒッキーとなっていた。


休日は溜まっていたアニメやネット小説の閲覧ばかりして、家から出るとかほとんどなかったからな。

久しぶりに剣を振れて楽しかったが、これからのランニングはマジ憂鬱で仕方がない。


それはそれとしてなんで大鳥はクラスで中二病ボッチの位置づけとなっていた俺に今更、滅茶苦茶なくらい話しかけてくるんだ?


大島は確かオタクメンバーと仲が良かったはずだし、俺みたいなボッチに構ってないで佐藤とかのところに行くべきでは。


そう思い、佐藤含めるオタクメンバーの方を見てみると、汗を拭いながら、ぺちゃくちゃと話し込んでいた。


時々、こちらをチラ見してきているような気もするが向かってはこない。

うむ。適性検査の時の少女が大鳥。

そしてあの時佐藤が言っていたアルガフィアというのは流行っていたオープンワールドのソシャゲだったはず。


俺も一時期やっていたな。

そんでもってそれで作ったキャラに似ているとか何とか言っていたような?

そこから導き出される答えは…… なんだ?


「なあ大鳥ぃ。お前、女の姿でゲームやってたんだってな。自分のやってることキモイって自覚できてねえのかなぁぁ? 仕草や口調だけじゃなくて、脳まで女になっちまったのかね。プークスクス」


そんな風に半笑いしながら近づいてくるのは加藤新太。

雄吾の取り巻きで、それを武器に他人を見下してくるクラス内のドブネズミポジションだ。某アニメのお金持ち君と一緒にするのもおこがましいくらいに根っこまで腐っている。人の心を弄んで喜ぶ正真正銘のクズだ。


俺も幾度となく、こいつに中二病時代の深堀をされた。

平静を装ってはいたが、だいぶ心を抉られたものだ。

……俺と同じく顔に出ていなかっただけで、影虎はもっとひどかったかもしれないが。


「あれれぇ。なにも言い返せないのかなぁ? じゃあ自分がやってることがキモイって自覚したうえで、楽しんでもいたとかぁ。ねえねぇそこんとこ詳しく教えてよ大鳥くぅん」


……さすがに度が過ぎてるな。

大島は目に涙をためて俯いている。

直接的な暴力がなくてもこれじゃほとんどいじめと変わらない。


「おい加藤。趣味は人の自由なはずだろ。それを笑ってなんか楽しいか?」

「うっせぇな! 中二病は黙っとけや!」


ぐふっっっ。

いや、俺はもう中二病は卒業して――

くそっ! 膝から崩れ落ちてんじゃねえ星宮黒斗!

俺が遣られたら次は大鳥が――


「加藤君! 君はまた」

「っち。人気者のお出ましか。今日はこの辺にしといてやるよ大鳥ぃ」


俺が加藤と熾烈な口論を繰り広げていると委員長が救援にやってきた。

それを見た加藤は最後まで憎まれ口を叩きながら、雄吾の下に戻っていく。

見るだけで恐れられるとはこれがクラスカースト最上位の力か。

まるで歩く災害だぜ。



溢れる涙を手で拭う大鳥に委員長が寄り添って声を掛けている。

訓練が終わったあと、自室に戻る際、委員長は俺にお礼を述べてきた。

よく言うぜ。俺は『中二病』の一言で崩れ落ちてたのに、歩くだけで加藤を追い払った癖にさ。

イヤミかな!


♦♦♦♦♦♦

お久しぶりです。

追記 1月24日 タイトル大幅変更。

メインとなる小説が終わり次第更新再開予定。

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超星の邪眼使い RAKE @Rake20021122

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