第13話 女の子だから…!!仕方がないんだよ…!!

「す、素敵……」


 一年間準備に準備を重ねてきた集大成が、ずらっと目の前に並べられている爽快感。そして達成感。

 何より。

 このローズわたしのためにあつらえられた一級品たちが一堂に会するこの光景は、もはや圧巻としか言いようがなかった。


 赤を基調としたドレスは、惜しげもなく絹が使われていて。最高級の手触りに仕上がっているのに。

 さらにそこに黒のレースで、大人っぽさをしっかりと演出してくれている。


 特にこの胸元から首元にかけての部分…!!


 子供から大人になりかけの少女の体を、隠しているようで完全には隠しきれていないというこの背徳感にも似た感情を湧き起こしそうなこの見た目…!!


 素敵。

 最高。

 マジで神。


 流石、分かってる。流行を生み出す人たちは、よく分かってる。

 この見えそうで見えないけどやっぱり見えそうな感じは、一定のフェチをお持ちの方々には深く深く刺さるでしょうね…!!


 し か も !


 それに合わせる靴も、大分ヒールが高くなっていて。

 同じように赤を基調にしつつ、レースで黒いバラが作られてワンポイントになっている。

 なのに靴下まで黒い絹という徹底ぶり…!!

 基本的にスカートに隠れて見えないのに、その見えないところにも気を遣うというまさに神…!!


 そう。そうなの。そうなのよ。

 この見えないところにも気を遣うのが、女性の嗜みだものね!!

 あぁ…本当にデザイナーはよく分かってる……。最高……。


 更に今日の日のためにと、扇まで新調してくれて。

 これまた同じ赤と黒。


 それだけでは飽き足らず、何と今回髪を留めるバレッタまで黒レースが使われたリボン。

 絹で作られた赤バラに、黒いレースのリボンをつけて。大人可愛く仕上げてある。

 リボンなのに甘すぎない…!!むしろ繊細で上品…!!


 こんな仕上がりある…!?


 もうね、完璧。完璧すぎるの。

 一分の隙も無いって、きっとこういう事を言うんだと思う。


「素敵すぎて、泣きそう……」

「ははっ。嬉しい事を言ってくれるね、私の可愛い愛娘は」


 だって…!!

 女の子だから…!!仕方がないんだよ…!!


 誰だって一度は憧れるでしょう!?こんな素敵な光景!!

 しかも貴族に生まれ変わったのならなおさら!!


「お父様、大好き…!!」

「お、っと…。ふふ。全く、ローズは本当に仕方がない子だなぁ」


 そう言いながら緩みっぱなしの頬と、嬉しさを隠しきれていない声。

 本当に私は、お父様にものすごく愛されてる。大切にされてる。


 確かにこんな素敵な光景に心躍るのは、女の子なら当然だって思うけど。

 それ以上に私にこれだけの時間と労力とお金を使ってくれているお父様の、そのお金に換えられないほどの愛情が嬉しい。

 何より一緒に喜んでくれることが、何よりも嬉しくて幸せで。


「まぁまぁ。ローズったら、明日がデビューだというのにまだまだ甘えん坊さんね」

「だって、本当に嬉しいんですもの…!!」


 一緒になってお母様もうふふと笑ってくれている。

 お兄様はお仕事が忙しいらしく、今日も出掛けてしまっているけれど。

 それならそれで、明日一緒にお城に行く時に驚いてくれればいい。


 そもそもまだ、ここからお化粧だってするのだ。

 何もせずとも美少女が、さらに美少女度を上げて登場するんだから!驚いてもらわないと困るんだからね!!


 ちなみに明日のエスコートのお相手は、当然ながらお兄様。

 だってお父様はお母様をエスコートしないといけないじゃない?

 それに実はお兄様には、まだ決まった婚約者はいないから。


 何より明日の主役はデビュタントたちだから。初々しい紳士淑女以上に目立つのは、当然ながらご法度なのだ。

 当然、ほとんどの人が婚約者すらいない状態での参加になる。

 だからこそ女の子は親兄弟がエスコートのお相手になるというわけ。


 こういう所、男の子は必ずエスコート相手を連れていかなくていい分楽だなと思わなくはない。

 やっぱりこういう貴族社会っていうのは、どうしてもまだまだ男尊女卑が根強く残ってるものだからね。仕方ないといえば仕方ないけど。

 ま、私にはお兄様がいるから関係ないし?その辺りは時代が変わればだんだん解消されていくはずだからね。今からそれを無理やり変えようとか、そんな事は微塵も考えてない。

 第一そういう事を考えるのは、偉い人たちの仕事。私の仕事じゃない。


 私がすべきは、生き残って幸せになる道を見つける事!!それただ一つ!!


 だから明日は徹底的に、何があろうとも、青王太子を避けなければならないのだ…!!

 何せ相手は同い年。同じように明日が社交界デビューで、主役であるデビュタント。

 接触を図って来ようとするのなら、きっとここ。


 実は財務大臣の娘であるルプレア様は、私たちの一つ年上。

 だからつまり、明日は主役ではないのだ。


 こればっかりはどうしようもなかったとはいえ、知った時は本当に悔しいと思った。


 だって王妃になりたい王妃候補だよ!?こんなに最適な相手はそうそういないでしょ!?

 これでもし同い年だったら、全部をルプレア様に押し付けられたのに…!!

 一年違ったらそれが出来ないじゃない!!何たること…!!


 それは明日だけじゃなく学園でも、一年の差はきっと大きい。

 その辺りを考え始めると、やっぱり私はヒロインの登場を待つしかないのかもしれない。


 今のままなら、私が魔物化する未来はあり得ない。

 この状態でヒロインと青王太子がくっついてくれれば、私は晴れて自由の身。

 そこからは自分の人生を謳歌すればいい。


 だから、そのためにも。


 明日の社交界デビュー、必ず成功させてみせるんだから!!



 そしてあわよくば、私に惚れる貴族男性よ!現れろ!!



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