第9話 悪役令嬢って、基本的にステータスが高いから
両手を置いてすぐに、魔導書が光り始める。
強い光なのに不思議と眩しいとは感じないそれは、ただの光のはずなのにどこかあたたかくて。
私は驚きに目を見開いたまま、瞬きも忘れてその光景に見入る。
前世も合わせた記憶の中で、今目の前で起きている事は初めて見るものだし、初めて体験することだから。
(これが、魔法……)
この世界では、誰もが最初に触れる魔法なんだろう。だからきっと、珍しくもなんともない。
でも私は一人静かに、この光景に感動すら覚えていた。
でもそれもやがて終わりを迎えて。
溢れんばかりの光を放っていた魔導書が、今度はその光を吸い込むかのように見えたと思った次の瞬間。
唐突に、光の洪水は終わった。
「もう手を離して大丈夫ですよ」
家庭教師にそう言われて、私は大人しく魔導書から手を離す。
でも、これでどうやって適性が分かるんだろう?
やっぱり本だから、どこかのページに自動的に書き足されてるとか?
もしくは何かが浮かび上がる?
そんな風に考えていた私の目の前で、それは唐突に起こった。
「せ、先生…!!本が…!!」
「慌てなくていいんですよ。今この魔導書が、貴女の適性を教えてくれますから」
いや…!!でも…!!
本のページ、飛んでるんですけど…!?!?
え、待って。
ホントに待って。
今これ、どういう光景…?明らかに魔導書から、本のページ、離れて飛んでるよ…?
え、大丈夫?これちゃんと、後で元に戻る?
それとも使い捨てだったりするの?
え、ホントどうなってるの…!?
魔法って原理が分からな過ぎて意味不明…!!
てか、こっからどうやって適性が分かるの!?
状況が何一つ分からないんだけど!?!?
机の上では収まり切らなかったページたちが、縦横無尽に飛び回る。
その一枚一枚が、さっきと同じ光を纏っているように見えて。
暗闇の中でこれを見たら、さぞ幻想的だったんだろうけど。
(いやでもっ…!!蛍とはわけが違うよね…!!)
求愛行動なんていう、ロマンチックな光とは程遠いんだろう。
というか、こんな激しくページが飛んでいるのが見えるのに、ロマンチックも何もない。
「おや…」
驚いているだけの私とは違って、慣れているんだろう。家庭教師は落ち着いていて。
けれど小さく呟いた言葉は、なんだか少しだけ驚きが含まれていたような気もする。
「流石ですね」
「…え……?」
「見てください」
言われて指さされた先で、ようやくページたちが本に戻って行く。
その中で、本の上に留まるページがいくつかあって。
「どうやらお嬢様は、五元素全てに適性があるようですよ」
その言葉にどういうことかと目を凝らしてみれば、それぞれのページには燃え盛る炎や流れる水が描かれていて。
それが計五枚。
だから五元素全てに適性があると判断されたという事。
(え、何それ。めちゃくちゃ嬉しいんだけど…!!)
つまり私、どんな魔法でも覚えられるってことでしょ!?
やったあああぁぁ!!!!
これで空を飛ぶのも夢じゃない!!
って、思ってたら。
「……おかしいですね…まだ全てが収まらないなんて…」
と、家庭教師が呟いた瞬間。
もう一度魔導書自体が強く光ったかと思ったら、五元素が書かれたページの上に、さらに二枚のページ。
「…………まさか……光と闇も含めた、全適性能力者…!?」
なんて、言い始めて。
「お嬢様凄いですよ…!!全適性を持つなど、そうそうある事ではありません…!!これは陛下にご報告申し上げなければ…!!」
と、一人盛り上がる家庭教師。
一方私はといえば、あまりの出来事にポカーンとしていて。
正直一切状況について行けずに、ただ浮かんでいる七枚のページを眺めるしかできない。
ただ、一つだけ言えることがあるとすれば。
悪役令嬢って、基本的にステータスが高いから。
いやだって、そうじゃなきゃヒロインのライバルとか無理でしょ!?ヒロインこそが、チートオブチートなんだから!!
そのライバルになるには、同じくらいチートじゃなきゃ!!
だからそう!!これは当て馬としてのチート能力!!
決して…!!決して王妃になるのに相応しいからとかじゃない…!!
この家庭教師がそれを分かってるとは微塵も思えないけど…!!
この日の勉強は、とりあえずまずは自分の中の魔力を感じられるようになりましょうっていうだけで。
あとはちょっとした注意事項だったり、基礎知識だけを教えてもらって。
それで、終わった、けど……。
正直、家庭教師がずっと興奮してて。次回は全適性のある私に相応しく、全ての魔導書を用意してくれるって約束までしてくれたけど。
半面、不安がすごかった。
いや、だって……。陛下に報告ってことは、つまり、さ…?
あの青王太子にも、伝わるってことで……。
結局。
後日私の嫌な予感は、ものの見事に的中して。
全部に適性があるなんて、流石ローズだね。的なことが書かれた手紙が、青王太子様から送られてきたけど。
仕方がないんだよ…!!私は悪役令嬢だから…!!
悪役令嬢のステータスが高いからどうしようもないんだよ…!!
個人的には嬉しい事のはずなのに、素直に喜べないこの複雑な感情…!!
せっかく魔法のある世界なのに、私のワクワクドキドキが違うドキドキに塗り替えられてしまう…!!
こんな冷や冷やしながら魔法覚えるのなんて、いぃぃぃやぁぁぁだあああぁぁぁ!!!!
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