第7話 逆効果?何の話でしょう?

「それ、は……先ほどのお茶会が原因…?」


 ……ん…?なんでここでお茶会の話が出てくるんだ?


 あまりにも見当違いな方向からの言葉に、咄嗟に何も返せないままでいたら。

 珍しく慌てたような口調で、青王太子が言葉を続けてくる。


「大丈夫だよ。少なくともルプレア嬢は、父であるディジタリス公爵からラヴィソン公爵家の令嬢には手を出すなと言われているはずだから」


 ……はい…?

 何だそれは。初耳なんだが。


 というか、そもそもなんでそれをこの青王太子が知っているのか。

 普通に考えて、知られてちゃいけない内容でしょ、それ。


「財務大臣であるディジタリス公爵からすれば、ラヴィソン公爵家は国一番の財源元だと知っているからね。ラヴィソン公爵の機嫌を損ねるわけにはいかないんだ」


 あぁ、なるほど。だから「言われてるはず」なんていう不確定な言い方をしたのか。


 っていうかさ、今そんな話題が出てくるってことは、だ。

 お茶会が始まる前のあれ、確実に知ってるな。


 本人が見てたのか、誰かが報告したのかは分からないけど。

 あれを把握されてたんじゃあ、ルプレア様を最有力候補者にするのって難しくないか……?


 あーもう!!いきなり前途多難とか何それ!!


「だからローズは何も気にしなくていいんだよ?国外への影響力も大きいラヴィソン公爵家の令嬢なんだから、家同士の力関係で言えばローズが一番なんだ」


 うわぁ……。

 それ、言っちゃう?よりにもよってあなたが、言っちゃう?


「今も最有力候補はローズのままだから、安心して」


 言ったー!!!!この人完全に言っちゃいけない事言ったー!!!!

 たぶんそれ、本当は誰にも言っちゃいけないやつー!!



 っていうか、それこそ安心できるかああぁぁ!!!!



 私にとってそれが一番安心できない内容なんだよ!!分かってよ!!

 いや、分からないだろうけど!!


「もしもそのことを気にしていたのなら、私からちゃんと――」

「いえ、その件に関しましては一切気にしておりませんのでお気になさらず。それとは別件ですので」


 これは早めに断っておかないと、きっと王家から各家に何かお達しがあるかもしれない。

 そうなったら遅いからね。今ここでその可能性を完全に断ち切っておかないとね。

 私の精神的な安定のためにも…!!


「それじゃあ……どうして、急に…?」

「急ではありません。前々から考えてはいたのです」


 あなたから離れる方法を、とは流石に口にはできなかったけど。


 でもほら、勉強しなきゃいけないのも本当だから。

 実際そういう力関係なんだって、ちゃんと私理解してなかったからね。

 そういう知識は、今後のためにも必ず必要になる。誰を味方につけるべきなのか、誰を敵に回さずにおくべきか。そして何より、どこの家の誰なら私に協力してくれるのかを知るために。


「ですから私に時間を下さい、フレゥ殿下」


 社交界デビューまでは、あと三年ある。

 それまでに何とか、魔物化ルートから外れる方法を探さないと。


 強い意志を持って青い瞳を見返せば、やがて小さくため息を吐いて。


「ローズの意志は固そうだね。私が今更何を言ったところで、きっとやることは同じだろうから。……そうだね。私がローズの学ぶ意欲を奪ってしまっては、意味が無いからね」


 そう、口にした。


 随分と遠回しだけど、要はお許しが出たという事で。

 つまり、当分の間この青王太子に会わなくて済む。


 いやっほおおおぉぉ!!!!

 しばらくは解放されるぞやったああぁぁ!!!!


 表面上は静かに感謝の礼を取りながら、心の中でガッツポーズをしながらそう喜び叫んでいたから。


「……全く…。逆効果かもしれない、なんて。微塵も考えていないんだね…」


 小さく呟いた王太子殿下の声を、その意味を、ちゃんと拾えなくて。


「逆効果?何の話でしょう?」

「いいや。何でもないよ」


 だから聞き返したのに、いつもの目が笑っていない笑顔でそうはぐらかされてしまって。

 ……っていうか、なんかいつもより笑顔が怖い気がするのは何でですかね…?気のせい?私の気のせいなの?


「じゃあ私も、次にローズと会う時にはもっと立派な男になっていないとね」


 あ、それはいいです。望んでないんで。


 むしろ出来ることなら、いっそ今からでもヒロインに会いに行ってくれてもいいんですよ?運命的な出会い、してきてもいいんですよ?

 ほら、政略結婚なんかよりも、真実の愛の方が大切でしょ?

 乙女ゲームの世界なんだから、ちゃんとゲームの攻略対象らしく恋愛してくれていいんですよー?


 声には出せないけど、心の中でそう強く強く念じてみる。

 届かないのは分かってるけど、願えばもしかしたら叶うかもしれないじゃん?


 ……今のところ、私の強い願いが叶ったことはないんだけどさ。



 でもこれでやっと、少し時間を稼げるから。


 私が距離を置いている間に、他の妃候補の誰かが出し抜いてくれて大いに構わない。


 私は私の保身のために、出来る限りの事を学び吸収してくるつもりだから。



 いっそゲームが始まる時期までに、候補者から外れたらいいのになー、なんて。


 一番叶いそうにないことを、私はぼんやり考えていた。





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