第4話 なんか……順調に外堀埋められてません…?

 どうなる事かと思っていたけれど、案外和やかに進んでくれているお茶会。


「まぁ…!ルプレア様はもうそこまで王妃教育が進んでおりますの?」

「えぇ。けれど私の場合は幼い頃から教えられてきたことがある分、今更教わる必要がないものが多いというだけよ」

「それでも凄いです…!!」

「それを言ってしまったら、フレゥ殿下なんてもっと大変な教育を受けていらっしゃるのだから。ねぇ、フレゥ殿下?」

「それはどうだろうね?私からすれば、これが日常だったからね。大変だと思ったことはないよ」

「まぁ…!!流石フレゥ殿下ですわ…!!」


 ただ、まぁ……よいしょする相手が増えただけ、ってだけなんだけど、ね。


「あぁ、そう言えば…。この間は急な公務のせいで、ルプレア嬢との約束を反故にしてしまったね」

「あら。それは仕方のない事ですわ」

「いいや。女性との約束を破るなど、いくら公務とはいえ許されることではないからね。お詫びと言っては何だけれど……」


 サッと目配せした王太子殿下の意図をくみ取って、控えていた侍従が何かを運んでくる。


 どうでもいいけど、なんでわざわざワゴンが置いてあるんだろうなーって気にはなってたんだよね。

 だってあれ、お茶会が始まって割とすぐに用意されてたよ?


 かけられていた布を外せば、出てきたのは様々な種類の花が使われている色とりどりの花束。


「流石にすぐに用意できるのはこれくらいしかなくてね。お詫びにもならないかもしれないが、受け取ってくれるかい?」


 ワゴンから自分の手で直接ルプレア様に渡すその姿は、どう見てもどこを取っても完璧な王子様。

 私ですらそう思うくらいなのだから、周りの候補者たちはうっとりと見つめていて。

 差し出されたルプレア様なんか、顔を真っ赤にして驚いている。


「まぁ…!!そんな…!!光栄ですわ、フレゥ殿下…!!」


 ……まぁ、うん。そりゃあそうだよね。

 まさかこんな候補者全員の前で自分にだけ、しかも手渡しで花束なんて渡されたら。

 普通は、そういう反応だよねぇ…。


 でも、ね?


「フレゥ殿下からの花束だなんて…!!」

「羨ましいですわね…!!」

「殿下から何かをいただけるなんて、ルプレア様が初めてなのではないかしら…!!」


 そう口々に言う取り巻きどもよ。教えてくれてありがとう。


 まさか……まさか私のこの髪飾りが、そこの青王太子から贈られたもので。

 更に毎週赤バラが自宅に届けられているなんて。


 うっかり口にしなくて本当に良かった…!!


 危うく色々逃げられなくなるところだった…!!


 全員が盛り上がっているところで、私は一人胸をなでおろしていた。

 知らないまま、気付かないままだったら、今頃私はどうなっていたのか……。想像するのも恐ろしい……。


「好みがわからなかったから、色々な花を用意させてみたんだけれど。気に入ってくれると嬉しいよ」

「とても嬉しいですわ…!!帰ったら早速、お部屋に飾らせていただきますね」


 音符マークかハートマークでも語尾につきそうなくらい、かなり上機嫌でそう答えるルプレア様。

 そうしていると普通の十二歳の恋する女の子で、可愛いなーって思うんだけど。

 どうしてずっとその状態でいてくれないんだろうなー。はぁ……。


 口にはできないけど、私はライバルじゃないんだって分かってもらえたら楽なのに。

 この婚約者候補から下りたいと思っているのに、上手くできないんですよーって。

 言えたら、楽なんだけどなぁ……。


 そんなことを思いながら、キャッキャと上品にはしゃぐ女の子たちを見ながら。

 私は別のことにも思考を飛ばす。



 と、いうか、ね?


 この女の子たち、どっかで見たことある気がするんだよなーって、ずーっと思ってたの。会った日から。


 で、記憶を必死で辿って辿って、ようやくたどり着いたのは。



 ローズ・ラヴィソン公爵令嬢の取り巻き。



 そう、彼女たちは。

 ゲームのローズの登場シーンの背景に度々描かれていた、取り巻きたちそっくりだったのだ。


 ってゆーか多分、本人。

 魔物に憑りつかれてから、ヒロインをいじめるようになったローズの後ろに。

 彼女たちの姿はあった。


(そんな女の子たちと仲良くするなんて、そもそもかなりリスキーなんだよね……)


 だから積極的に関わろうとしていなかったというのも、実はある。

 私は徹底的に魔物化ルートを避けたいので、可能性があるものは全てスルーしておきたいから。


(でもまさか、他の婚約者候補たちだとは思ってなかったからなぁ……王太子殿下をヒロインに取られる可能性があるから、全員で協力してたってことなんだろうけど)


 それならそれで、他にやりようもあっただろうに。

 正直彼女たちの言動に直接触れていると、魔物化する前のローズ以外王妃になれそうな人はいなかったんじゃないかって思っちゃう。


 まぁ、うん……。だからこの青王太子も、私にしておこうって思ったんだろうけどさ……。


 本人は茶番だと思って付き合っているのか、それとも本気で仲良くしようとしているのか。

 正直私にはよく分からないけれど、まぁ分かる必要もないかと一人ゆっくりお茶を楽しむ。


 あ、今日のお茶この焼き菓子とめちゃくちゃ合う~~!!

 さっすが、王族のお茶会に出るクオリティは違うわー。


 なんて、発言一つすることなく楽なお茶会の時間は過ぎてくれて。

 王太子殿下自ら、私達を車寄せまで送ってくれるということになったらしく、全員でぞろぞろと歩いていれば。


「あら、可愛いお嬢さんたち。もうお帰りかしら?」


 と、正面から歩いてきた王妃様に声をかけられる。



 …………ん……?

 なんで今、王妃様はそっちから来たんだ…?


 普通ここは、王族が通る道じゃないと思うんだけど…?



「母上、今お帰りですか?」

「えぇ。友人たちのお見送りをして来たところよ」

「おや、奇遇ですね。私も今から彼女たちの見送りをと思っていたのです」

「まぁ…!!」


 …………はぁ……なるほど、そういうことですか…。


 お茶会の少女たちの茶番の次は、王族の親子の茶番が始まるとか。

 ナニコレ厄日?


 とはいえまぁ、声をかけられるまでは全員しっかりと礼を取って黙っているしか出来ないけれども。

 これは、なぁ……嫌な予感がするなぁ……。


「じゃあ折角ですし、ちょっとラヴィソン公爵家の令嬢を借りてもいいかしら?」

「母上……そうやって彼女に伝えなくても、直接公爵殿へ伝えればよろしいではないですか…」

「あら、早い方がいいじゃない?何よりあの画期的なお茶は、最近の私のお気に入りなのだもの。是非とも色々お話したいわ」


 あぁ、あれか…。最近我が家が商人にも卸し始めた、バラの紅茶の話ですね。はいはい。

 で、それを口実に王妃様は私とお話がしたい、と。



 …………なんか……順調に外堀埋められてません…?



 気のせいかなぁ…?

 私も断れないし、何より同じ候補者の子たちが一切付け入ることが出来ない内容で来てる辺り、かなりずるい方法だと思うんだよね。


 なんてことを思っている私の内心とは裏腹に。


「母上のわがままで申し訳ないんだけれど、お願いできないかな?」


 そう、ダメ押しとばかりに王太子殿下に言われてしまったら。


「いいえ、フレゥ殿下。お話、是非とも聞かせていただきたいです、王妃様」


 私は笑顔で、そう答えるしかないわけで。



 あーーーー…………逃げ出したい。


 この空間から、本当に一刻も早く逃げ出したいのに。



 私はまだ、お城ここから帰れそうになかった。




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