第3話 え?お茶会?

「え?お茶会?」

「はい。候補者のご令嬢を全員集めての、初の王太子殿下が開かれるお茶会への招待状とのことです」


 渡されたそれは、もう見慣れてしまった王家の印章がある招待状。



 あの出かけた日、馬車を降りる前に実は「今度会う時はそれをつけてきてね」と言われていたけれど。

 結局もらって以降、まだ一度もあのバレッタはつけたことがなかった。


 だってあれは、ゲームのローズがつけていたものだから。


 ……っていうのも、もちろんあるんだけど。

 実はそれ以外に、一つ気になっていることがあって。



 この贈り物って、私以外の候補者にもちゃんと贈られてるのかな、って……。



 いや、だって…!!

 噂とか何にも聞かないんだもん…!!


 普通こういうのって、候補者同士マウント取ろうとして言いふらすもんじゃないの!?

 実際王太子殿下とどこそこの娘がどこに出かけたとか、そういう話めっちゃ聞くんですけど!?


 なのに…!!


 誰かが何かをもらったっていう話は、一切入ってこない。

 そう、一切。


(これって、さぁ……)


 どう考えても、贈り物をもらったのは私だけなんじゃないかって、思うわけですよ。



 それに。



「あぁ、そうでした。本日もまた、見事なバラが届けられていましたよ。先週のものはもうダメになりそうだったので、新しいものに変えてあります」


 そう言ってメイドが示した先は、私が座っているテーブルの上。

 そこに置かれているガラスの花瓶には、言葉通り見事なバラ。しかも私が好きなアマダが活けられていた。


「王太子殿下は随分とマメな方ですね」

「そう、ね」


 そう、何を隠そう。

 あの日から毎週、決まって同じ曜日の同じ時間に、このバラが届くようになったのだ。

 よりにもよって、私が一番好きだと言ったこの花が。

 最愛の意味を持つ、このアマダという名前のバラが。


(この花の持つ意味なんて、あの青王太子は知らないはずだから……単純に、私の好みに合わせただけなんだろうけど、ね)


 それでも贈られている私の側からすれば、まるで特別な意味合いがあるようにも見えてしまって。

 なんか、こう……自意識過剰っぽくて、すごく嫌だ。



 でもあのカメオだけは、かなり特別なものだと分かる。


 だってあれ、シェルカメオだったから。



 それはあの王太子殿下と初めて会ったお茶会で、私がつけていたチョーカーと全く同じ素材。しかも一輪のバラが彫られているところまで、そっくりそのまま同じ。

 ただし大きめのシェルだったからなのか、もらったものの方は彫られた部分が淡い色になっていたけれど。

 それすら土台に合わせた色合いになっていて、とても落ち着いた大人っぽいデザインで。

 本当に素敵で、成人しても問題なく使えるような仕上がりになっていた。


 ただ、それがなぜ。

 まさかの王太子殿下から贈られたのか、というのは。

 私にとって一番の謎だったけれど。


(ゲームの中では特にそんなエピソードは語られなかったけれど、実は裏でそんな設定があったとか?)


 それなら納得できる。

 どんなに制服やらドレスやらと衣装が変わっても、髪飾りだけは変わらなかった理由。


 一目惚れした相手が贈ってくれたものなら、そりゃあ乙女なら常につけていたくなっちゃうよねぇ。


 そう。

 一目惚れした相手なら、な。


(私、一目惚れなんてしてないんだけどなー……)


 そうは言っても、半ばつけて来いという命令のような言葉。従わないわけにはいかない。


 だからこそ、こうやって。

 もはや恒例となった馬車に揺られながらの現実逃避をしつつ、バッチリドレスと化粧で武装した私の髪には、あのバレッタが付けられているわけだ。



 さて。

 じゃあ何で、こんなにも現実逃避をしているのかというと…。

 それはもう、これから会う相手が青王太子以上にめんど……厄介な相手だから。



「はぁ…」


 思わずついてしまったため息は、まだ馬車の中だからいいけれど。本当はずっとため息をついていたいくらい、本気で行きたくない。

 まだ青王太子と二人でバラ園で会う方がマシ。

 そう思うくらい、行きたくない。


 ってか、単純に顔を合わせたくない。


 だって、私には一切その気はないのに。勝手に最有力候補とか言われているせいで。

 他の四人が結託して、私を追い落とそうとしてくるんだもん…!!


 追い出されるのは全然いいんですよ!!むしろ大歓迎!!ウェルカム!!

 でも落とされるのは勘弁…!!

 ってか、女のマウントの取り合いがもう…!!相手するのが本当に面倒…!!


 ……あ。面倒って言っちゃった…。


 でもね、一回聞いてみれば分かると思うんだよ。

 だって、さぁ…。


「あら。ローズ様は、流石最有力候補と言われるだけありますわね」

「本当に。まだ王太子殿下がいらしていないとはいえ、家格としては一番上のディジタリス公爵家のルプレア様よりも後にいらっしゃるなんて…」

「商人のお相手にお忙しかったのかもしれませんよ?」


 金魚のフンか!!って言いたくなるくらいの典型的な取り巻きたち。

 そして。


「皆さんお止めなさいな。家柄に関して悪く言うものではありませんよ」


 一見かばっているようにも聞こえるこの発言をしている張本人が、その話題のルプレア・ディジタリス様。

 本人は薄い紫の髪に、濃い紫の瞳をしているけれど。いつも割と濃いめの化粧をしている。

 正直、色合いからするともう少し薄いメイクの方が似合う気がするんだけどと、いつも思う。


(っていうか、家柄じゃなく私個人に対する悪口なら許容するってことでしょ?その言い方だと)


 ディジタリス家は代々財務大臣を務める家柄だから、かなりレベルの高い教育を受けてはいるんだろうけれど。

 正直、彼女だってまだまだ子供。たかだか十二歳程度の子供が考える言葉遊びなんて、その程度が限界なんだろう。

 前世の記憶を含めれば、とっくに成人の年齢に精神的には到達している私からしたら。子供が大人に対して、分かりやすく裏がありすぎる言葉を口にしているようにしか見えない。


 それでも、取り巻きたちにとってはそれで十分みたいで。


「流石ルプレア様ですわ」

「えぇ、本当に。寛大なお心でローズ様を許して差し上げるなんて」

「人としての器が違いますわね」


 なんて、一生懸命よいしょしてる。



 ってか、何この茶番。

 私毎回、これに付き合わないといけないの?

 ほんっと、嫌なんだけど。



 何度か必要だからって、顔を合わせた事があるけれど。

 本当に、毎回毎回毎回毎回。飽きもせず同じことをまぁ…。


 いい加減こっちが飽きたわ!!


(面倒くさいなぁ……)


 こういう時だけ、早く青王太子来ないかなーなんて思うんだけど。


 不思議なことに、私がそう思ったタイミングでいつも……。


「あぁ、もう全員揃っていたんだね。待たせてしまったね」


 なんて、後ろから一見機嫌良さそうに見える笑顔を張り付けて現れるから。


(ぶっちゃけ、どっかで見張られてるんじゃないかって、疑ってるんだけど…?)


 それでもまぁ、これで一旦茶番が終わってくれるわけだし。

 いいかーと思いつつ、振り返ってしっかりと礼を取っておく。



 さぁ、このお茶会。どうなることやら……。







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