第9話 主役の登場
「え、っと……?」
おっかしいなぁ……?
今日は確か、公爵令嬢しか呼ばれていないはずなのに……。
目の前の人物は、明らかに男の子の格好をしてるよねぇ…?
青い髪に青い瞳。顔は整っているので、格好さえドレスだったら女の子に見えなくもないけれど。
この世界で乗馬の時以外に貴族女性がズボンを履くなんて、まずあり得ないし周りが許さないことだから。
だからきっと、彼は少年。
うん、少年。
…………。
あっれぇ~?
なんか目の前に綺麗な少年がいるぞー?
なんでだー?
あとこの子、同じくらいの年齢なのに女の子の髪色を褒めるとか…将来確実に女たらしになりそう…。
しかも振り向いたらニコって笑ったんだけど……何この子。ホント将来が心配になるよ。
ただちょっと気になるんだけどさ?
確かに笑ったんだよ。笑ってるんだよ。
表情は笑顔の形になってるんだよ。
な の に … !
なんで目だけ笑ってないの!?
人の笑顔見て怖いって思ったの初めてなんだけど!?
思わず後ずさりしそうになって、後ろに人がいることを思い出して思いとどまる。
ちょっとだけ足は踏み出しかけてたけれども。
っていうか、ほぼ同じ年齢なのになんで目が笑ってない笑顔を習得して……
「フ…フレゥ殿下!?どうしてこちらに!?」
「あぁ、バレちゃった」
「…………」
は……?
はああぁぁ!?!?
え?この少年が王太子様…!?
私がずっと警戒していた、あのフレゥ王太子殿下!?
いやいや、確かに髪色とか青だけども…!!
顔つきぜんっぜん違うんですけど!?もはや女の子と間違えそうなくらいなんですけど!?
くっそぅ…!!
女の子より男の子の方が、小さい時より顔つき変わりやすいってことか…!!
いやそりゃそうか!体型すら見る影もなくなる人多いもんな!!
かんっぜんに失念してたよ、くそぅっ…!!
っていうか……ちょっと待って!?
これってもしかして、本当の主役の登場ってこと!?!?
じゃあやっぱり、このお茶会の本当の目的って……。
「フレゥ、こちらにいらっしゃい」
「はい、母上」
王妃様に呼ばれた王太子殿下が、子供らしい高い声で返事をして。
そちらへと歩き出し、私の横を通り過ぎるその一瞬。
「っ…!?」
明らかにあの青い瞳と、目が合って。
何の意味があったのかは分からない。
ただ目立つ髪色が気になっただけかもしれないし、話しかけておいて途中になってしまったからかもしれない。
でも、今。
明らかに。
あの瞳の奥に、何らかの決意のようなものが見えたような気がして。
思わず両手で自分の体を抱きしめる。
(なに…?私何か、した……?いやいや!!今初めて会ったばっかりだし、何より向こうは私のことを知らないはずだし…!!)
でもそれなら、なぜ?
どうして私にわざわざ声をかけた上で、あんな瞳で見てくるのか。
混乱と恐怖で、立っているのもやっとという状態の私を置き去りにして。
やってきた本当の主役の紹介を、王妃様が直々にしているみたいだけれど。
その声すら、私の耳を通り過ぎていって。全く頭に入ってこない。
ただ、どうして、と。
出ない答えを自問自答しているだけの私は、きっとこの中でかなり異質だったのだろう。
だって周りの子たちは、みんな憧れの王太子様の登場に色めきだっていたから。
公爵令嬢たちだ。将来のことを考えて、親からきっと色々聞かされてきたんだろう。
最も王妃の座に近く、それを確実に狙える距離にいる子たち。
それを親はよく理解している上で、その座を狙うように仕向けているはずだから。
そこから何が何でも遠ざかろうとしているのは、きっと私くらいなもので。
でも確かに、彼が私の魔物化ルートの引き金であることに変わりはない。
未来を知っている身からすれば、出来得る限りお近づきにはなりたくない存在なのだ。
(でも、一目惚れはしていない……。つまり第一段階はクリアしているってことだから、少なくとも今の私に心の隙間なんて出来ないはず。そうなれば、魔物化ルートだって回避できるはず…!!)
そう。私は確かに今、王太子殿下と知り合うことになってしまったわけだけれど。
というか、向こうから声をかけられてしまったわけだけれど。
それでも一目惚れは、しなかった。
これだけでも十分じゃないのか?
今後関りさえしなければ、懸念事項は全て消え去るはず。
そうすれば、私の幸せな未来だってきっとあるはずなんだ…!!
そう信じて、ようやく衝撃から立ち直った私が前を向けば。
一番目の令嬢が、ちょうど二人に挨拶をしているところだった。
その様子から、明らかに彼の登場を待って始められたのだと分かってしまって。
偶然居合わせたのだと、ほとんどの子たちは思っているようで。あちらこちらから幸運だの、今日でよかっただの聞こえてくるけれど…。
違うからね?最初から登場する予定だったからね?
王妃様だって驚く様子さえ見せずに、誰かが咎めることすらなく普通にお茶会が始まっていることからして、完全なる予定調和だったことがよくわかる。
だって今日は女の子だけを招いてのお茶会だったはずなのに。そこに王太子とはいえ男の子が一人混ざるなんて、本来であれば許されないはずだから。
親がいたらすぐにばれてしまうような事をわざとやってみせたのは、もしかしたらそれをこの年齢の子たちに見抜けという、王妃様からの最初の課題なのかもしれないけれど。
私はあえてそれに気づかなかったふりをしよう。そうしよう。
で、当初の予定通り挨拶だけして帰る。
目標は、王太子殿下に関わらない、関わらせない。
(うん、出来る。私なら出来るから。きっと大丈夫!!)
そんな風に考えて、グッと手に力を込めて決意する。
私のそんな考えも決意も、全て無駄だったのだと。
もろく崩れ去ってしまうものだったと、この後すぐ目の前に突きつけられることになるなんて。
この時の私は何一つ、分かっていなかった。
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