第8話 女の戦いが始まっている…!!
すっかり忘れてた…!!
そうだよね!!
本来なら、違う意味で戦場になってるんだった…!!
王太子殿下が出てくるかどうかなんてことに気を取られてる場合じゃなかった…!!
だってここは、公爵家の令嬢が集うお茶会。
子供とはいえ、このくらいの年齢になれば女であることに変わりはない。
そう、つまり。
王妃様主催のお茶会が開かれているはずの、この場所で。
今、まさに。
女の戦いが始まっている…!!
いやもうホント、びっくりするぐらい女の子って成長早いよねー。
あっちこっちでにらみ合いが始まってるんだけど、これ何に対する牽制なんだろうね?
ってゆーかむしろ、あのあたりの子の家は、何て言って送り出したんだろうか。
親が控室にいるはずなんだけど……一回その親の顔見てみたいわ。
それにしても、あっちの令嬢は泣いたのかひどい顔になっているし。かといってそっちの令嬢はといえば、子供には似合わないような重く見えてしまう宝飾品をごてごてとつけているしと。
それはもう、酷い状態だった。
っていうか、子供にあんなジャラジャラとしたもんつけるなよ。品がなさ過ぎて、親の感性疑うわ。
悪いけど、あれは下品としか言いようがない。
そもそもにして王妃様主催のお茶会だっていうのに、誰に何を誇示しようって言うのか。
子供同士じゃ、その本当の良さなんて何も分からないんだから。大切なのは家同士の関係じゃなく、その子の言動の方。
王族が何も分からないとでも思っているのか、それともそこまで考えていないのか。
まぁ、どっちにしろ似合わないことに変わりはないからどうでもいいけど。
私自身や我が家に何か害があるのならともかく、下手にかかわらず放っておけばいいだけなんだから。
刺激しないように何食わぬ顔をして、私は主催者への挨拶をするために真ん中に置かれているテーブルへと向かう。
どうやら順番に名前が呼ばれているようだけれど…。
たぶんあれ、今後の挨拶の順番と同じなんだろうな。
そうやって覚えさせていくのか、なるほど。
確かに顔も知らないままだと、誰が最初に挨拶していいのか分からないもんね。
親がいない場合は、こうやって序列を教えていくのか。考えたな。
妙に感心しながら近づけば、何人かの子供たちから向けられる視線。
明らかに好意的ではないそれは、たぶん親から警戒するように言われているんだろう。
赤い髪、なんて。
この中でも明らかに目立つから、ね。
急いで教えられたこのお茶会の意味は、確かに数年おきに開かれている令嬢達の通過儀礼のようなものらしいけれど。
それが前回開催されたのは、わずか三年前。
本来ならば五年周期ほどのそれが今回開催された理由なんて。
余程察しが悪くない限りは、公爵家の人間が分からないはずがない。
つまりこのお茶会は、王妃様自ら未来の王妃を見定める役割を持っているという事。
そしてだからこそ、あっちの家もこっちの家も必死になって子供を着飾らせて。
子供たちに周りを牽制するように教え込んできたんだろう。
「なんて無駄なことを…」
小さく呟いた声は、誰にも聞こえないまま空気に溶けて消えてくれたけれど。
辺りを見回してみれば、このお茶会に本当に相応しい格好をしている子供は両手の指にも満たなかった。
そもそも誰もかれもが着飾る事ばかりを考えて、自分に本当に似合うかどうかを考えていない。
あれじゃあ、戦う前から結果は決まっているようなものなのに。
ちなみに彼女たちが私に対してあまり好意的ではない理由は、大きな役職を持たない家柄のはずなのにラヴィソン公爵家が強い発言権と影響力を持っているから。
我が家のバラ製品を特定の国に輸出しないと宣言すれば、その国の貴族女性たちは大変困ることになる。
何せバラの化粧水もバラの香水も、今や貴族女性の間で大流行しているものだから。
どの世界でも、美に関することとなれば女性は目の色を変えるものなんだよねぇ。
だから割と王妃候補の一人として周りからは見られているようで。
そのせいで子供たちにも警戒するように、たぶん親が言い含めているんだろう。
実際ゲーム中ではその予想が途中までは的中していたわけだから、馬鹿には出来ないんだろうけど。
こっちからしたら、それこそいい迷惑なんだけどね。
「はぁ……」
これはおしゃべり一つ出来ずに終わるなと、もはや早々に諦めの心境になっていた時。
「ローズ・ラヴィソン公爵家令嬢殿」
ちょうど名前が呼ばれたので、挨拶の列の最後尾へと並ぶ。
流石に王妃様をお待たせしないためもあるのか、何人かをこうやって並ばせておくみたいで。
まぁこうでもしないと、前後の家格の子の顔とか名前とか覚えられないしね。
にしても……。
女性しか招待していないお茶会で、こういうことを受け持つのが男性の騎士っていうのは……。
警備としては完璧なんだろうけど、知らない男性にいきなり名前を呼ばれると怯える子も出てきそうだな。
今日は公爵家しかいないみたいだから、まだ大丈夫だろうけど。これが男爵家とかになったら、果たしてどうなっているのか…。
考えたくないよねぇ……。
でもま、私には関係ない事だし?
今のところ王太子殿下の姿も見えないから、このまま何事もなく過ぎてくれればいいなー、なんて。
思わないわけじゃないんですよ?
ちゃっちゃと挨拶だけ済ませて、ちゃっちゃと帰ってしまおう。
そう考えていたのがいけなかったのか、それともそうなる運命だったのか。
「君、綺麗な髪の色をしているね」
突然後ろからかけられた声に振り向いた先。
とってもきれいな顔をした、格好からしてたぶん少年?が立っていたことに。
何の警戒もしていなかったことを後悔したのは、そのすぐ後の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます