第7話 いざ戦場へ!!

 そんなこんなで、ついにお茶会当日。

 今回は子供たちにとって初めての、しかも王族からのお茶会のご招待という事で、随分と長い準備期間をもらったわけだけれど。

 果たして、他の家の子たちはどんな風にしたのか。


 私はといえば、予定していた赤いバラの刺繍が入ったドレスに白いリボンのついたバレッタ。

 顔には僅かにとはいえ化粧を施して、少しだけ大人っぽく見せて。

 足元は少ししか見えないけれど、白い絹の靴下にヒールの低い赤い靴。

 それと首元にあえて細めの、ドレスと同じ色のチョーカーをつけて。中央には小さな金の土台に、バラが彫られたシェルカメオが乗せられて。


 家族と一緒に本気で選んだそれらが、私に似合わないはずがなかった。


 商人としては、本当はもっと色々と宝石の使われた品を売りたかっただろうに。

 それでも用途と年齢を考えたらという事で、ちゃんとTPOに合ったものを揃えてくれていたのは流石だと思う。


 ここら辺は、ラヴィソン公爵家の得意分野でもあり特権でもあるから。

 こちらから彼らに富を与えている以上、向こうも下手なことは出来ないとちゃんと理解している。

 生粋の商売人だからこそ、逆に信頼がおけるというわけだ。


 じゃなきゃラヴィソン公爵家にとっくに切られてるだろうからね。

 我が家のお墨付きというのもまた、彼らにとってはお金に換えられない付加価値なわけで。

 そうなればまぁ、そりゃあ本気で用意するよねぇ。



 なんてことを馬車に揺られながら思う私は、ここ最近こうやってどうにかこうにか現実逃避をしようとしていることが多くなった。



 だって…!!

 ついに私の運命が決まるかもしれないんだよ…!?


 ここで王太子様に一目惚れなんてしてなるものですか…!!

 こっちは成長した姿を知ってるんだ…!!その分ちゃんとアドバンテージはあるはず…!!


 何としてもここで一番最初の段階を回避して、魔物化ルートから外れないと…!!



 そう、ここからはただの日常じゃない。


 私が生きるか死ぬかを決める、まさに戦場なのだ…!!



 いざ戦場へ!!



 そういう強い思いを持って、お城の車寄せへと降り立つ。

 待ち構えていたお城の騎士たちが扉を開けてくれて、中はお城の侍女が案内してくれる。


 流石にまだデビュー前の子供たちなので、母親同伴ではあるけれど。


 でもそれも、親が通される待合室の前まで。


「お母様はここで貴女の帰りを待っていますからね。楽しんできなさいな」

「はい、お母様。行ってまいります」


 ここで母親と離れたくないと泣き叫ぶ子供も、もしかしたら時折いるのかもしれない。

 侍女の顔が、僅かにホッとした表情を見せていた気がしたから。


 とはいえまぁ、流石にお城で働くことが許されたプロ。あからさまに態度に出したりはしない。

 そういう所、ちゃんと教育されていて流石だなぁとは思う。


 ちなみにお母様達の待機場所である部屋の中は、また別のお茶会が開かれているようで。

 ちらりと見えた扉の向こうでは、お茶やお菓子を楽しみつつ我が子の心配をしている母たちの姿があった。

 あっちはあっちできっと、お互い慰め合うという珍しい状況になっているんだろうけれども。


 親としてはそりゃあ心配だよねぇ。

 初めて我が子が一人で、しかも王妃様のお茶会に参加するわけだから。



 ちなみにこの子供だけが参加する王妃様のお茶会、割と数年おきに開催されているようで。

 これが最初の通過儀礼らしく、王妃様のお茶会に出席しない限り他のお茶会には参加できないのだとか。


 その際、各家のしつけの度合いや令嬢の性格を見るために、あえて母親ですら同伴させないのだそうで。

 そしてだからこそ、基本的には同じ家格の子供たち同士でのお茶会にするのだとか。


 まぁ、子供だけなんて大変だろうし。

 何よりまだ貴族社会のルールもマナーも、全部は学びきっていない子供も多いだろうからね。

 その辺りは仕方ないとは思うけど……。


 だいぶ大胆な方法を取っているのは、これが乙女ゲームの世界だからなのか。

 はたまた何か理由があるのか。


 …………。


 いや、理由はありそうだな。

 子供にわざと王妃様や王太子様に取り入らせようとする母親がいたとか、そういう政治的なことなんだろうけど。


 でもそれ、別に同伴じゃなくてもやろうとする家は多いと思う。



 そう考えると、もしかしたら違う意味でも戦場なのかもしれない……。



「ラヴィソン公爵家のお嬢様、こちらです。どうぞ」


 案内役の侍女に促されて、お城の中にある手入れの行き届いた中庭へと足を踏み出す。


 少し緊張しているのは、初めて王妃様に会うからだけじゃない。

 同年代の女の子たちと会話を楽しもうとか、そんなことすら考えていない。


 ただ、今回かもしれない私の運命の決まる相手との邂逅。


 それだけが、私にとって一番の懸念事項。



 それでも。


 私はどうしても、生きて幸せになりたいから。



 いざ戦場へ!!



 もう一度気合を入れ直して、私は一歩一歩中心部へと足を進めるのだった。




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