第6話 目立たないように…出来る格好かなぁ?これ
目立たないように…出来る格好かなぁ?これ。
出来上がったドレスを試着した私が、鏡の中の自分と向き合って最初に出てきた感想はそれだった。
真っ赤な髪に負けないくらい、鮮やかな赤いドレスには。前に自分で選んだ刺繍が、胸元にしっかりと縫い付けられていて。
まだ子供の体型だというのに、まるでそれを隠すように腰を引き絞って。そこからふわりと広がるスカートにも、ささやかだけれど美しい刺繍が所々に散らされている。
髪はハーフアップにして、白いリボンが付いたバレッタで留めている。
赤に白というのは、驚くほど似合っていて。ここは逆に子供だからこそ、あえてリボンなんだろうなと思いはした。
ただ、どうしてこんなまだ色々と発達していないように見える世界に、既にバレッタがあるのかというのは疑問だったけど。
そこを考えちゃ、いけないんだろうな。きっと……。
そう、ここは乙女ゲームの世界なんだから。何でもありなんだよ、きっと。
自分にそう言い聞かせて納得したけれど。
これどう考えても……控えめに言って、完成されすぎてる。
にっこりと笑いかければ可愛さを、淑女らしく澄まして見せれば美しさをアピールできる。
今年六歳だというのに、この仕上がり……。
将来が楽しみというか怖いというか……。
いや、知ってるんだけどね!?どんな見た目なのか知ってるんだけどね!?
ものっすごい美人さんになる未来が確定してるって、ちゃんと分かってるんだけどね!?
まさか子供の頃からこのレベルだったとは……。
衣装合わせだけだから、化粧は一切してないはずなんだけどなぁ……おっかしいなぁ…?
それともあれか?この世界の女の子っていうのは、みんなこのレベルだっていうのか?
だとしたら平均レベル高すぎる…!!
「まぁまぁ、ローズ…!なんて素敵なの…!!」
若干現実逃避に近い事をしていた私の後ろから、はしゃいだような嬉しそうな声が聞こえてきた。
「お母様」
振り返った先にいたのは、予想通り私のお母様で。
私が受け継いだ赤い髪を緩く編み上げて、それはそれはキラキラと瞳を輝かせている。
「今でもこんなに素敵になって…。将来社交デビューする頃には、どれだけ素敵になってしまうのかしら。私の可愛い娘は」
「まぁ。大袈裟ですわ、お母様」
「大袈裟なものですか。今回が王妃様主催のお茶会でなければ、きっとお父様は貴女を外に出すことすら嫌がってしまうかもしれないわ」
「それは……」
あのお父様なら、あり得るかもしれない。
そう思ってしまった私は、別段自意識過剰とかではなくて。
本当に、お父様は私にあまあまなのだ。
そんな人が、私のこの姿を見たら……。
確かに、外には出したがらないかも。
「招待されているのが令嬢しかいないから、今回はまだいいのですって」
あ。既に見る前から発動されてたんですね。
その内本当に、俺が認めた奴以外は~とか言い出しそうだなぁ…私のお父様。
「困った人よね。王族からのお茶会のご招待ですら、男の子がいたら断ろうとしているんだもの」
それはぜひお願いしたいところです。
可能なら、今回だって断ってほしかったところだ。
いや、無理なのは分かってる。ちゃんと分かってる。
私が我が儘を言ったあの時、お父様だって困ったような顔をしていたから。もしかしたら本当は断りたいのを我慢していたのかもしれないし。
「きっと将来は求婚者が殺到するほど、引く手あまたになってしまうのでしょうね。今回のお茶会の参加者の令嬢の中で、きっとローズが一番素敵なはずよ!」
「もう、お母様ったら…」
手放しで褒めてくれるのは嬉しいけれど、出来れば今回だけは目立ちたくなかったんだけどなぁ…。
どう考えても、無理だよね。この見た目じゃ。
とはいえまぁ、目立つだけなら問題はないのか。
将来のために多少は牽制しなきゃって思ったのは事実なんだし、私が王太子様に一目惚れしなければいいだけの話だし。
何より、今回のお茶会に王太子様が本当に現れるかも分からない。
現れなければいいなーなんて淡い期待を抱きつつ、私はもう一度鏡に映る自分の姿をまじまじと観察してみた。
緩くウェーブのかかった髪は元からで、ただ髪を結んだだけでもゴージャスさが出ている。
でも縦巻きロールとかじゃない分、変に悪目立ちするわけでもなく。ふんわりとした女の子らしさが出ていて、むしろ今のこの髪はお気に入りだ。
まだまだ幼い顔つきは、その分瞳を大きく見せていて。キラキラと光る金の瞳がとても印象深い。
対して肌は驚くほど白いのに、病弱さは一切見えないというバランスの良さ。
もうこれだけで、どれだけ素材がいいのかが分かる。
これでまだ子供なんだから、確かに将来はもっと洗練されるはずで。
というか、洗練されていたわけで。
悪役令嬢として必ず最後に立ちはだかるはずなのに、ネット上ではかなりの人気を誇っていたらしいから。
確かにこれならそうだろうと、自分の事ながら頷いてしまうくらい納得できる。
ちなみに、ローズはヒロインであるジャスミンよりも人気があったらしい。
魔物化してしまう前は、それはそれは驚くほどよくできた令嬢だったからというのもあるけど。
割と数少ない男性ユーザーから、ローズは圧倒的な支持を得ていたらしい。
まぁ、ね。
この見た目で、将来はボンッキュッボンッ、だもんね。
そりゃあ、男性陣にはたまらんでしょうよ。
なんて考えていた私は、お母様が小さく呟いた心配そうな声が聞こえていなかった。
「王太子殿下が、ローズを気に入ってしまわれたらどうしようかしら……」
私にとってそれは、最も危惧するべきところだったのに。
つい男性ユーザーの気持ちを勝手に想像して、頭の中でうんうんと頷いていた私には。
それよりももっと色々と考えて、対策すべき事があるはずだったのだ。
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