第2話 大丈夫!お父様は私に甘いはずだから!!

 よくよく考えてみたら、私が王太子様に一目惚れしなければいいだけの話ではないかと気づいたのは、熱も引いて念のためともうしばらくベッドに寝かされていた時だった。


 あんまりにも暇で暇で。

 家族も使用人たちも、みんなが心配してくれていることはよーっく分かってたんだけど。

 それでもやっぱり、何もできないまま横になってるだけって暇すぎて。


 結局、同じことを考えるしかなかった。


 で、だ。

 じゃあどうすればいいのかという話なわけだけれど。


 大前提として、この世界の事を思い出した私が果たして王太子様に一目惚れするのかっていう謎はあるけどね。

 それでもまぁ、子供とはいえものすごく素敵かもしれないし?ゼロとは言い切れないし?



 な・の・で!



 会わなければいいじゃない!!


 という結論に至ったわけで。



 そもそも知り合いにさえならなければ、最初から魔物化ルートからは外れられる。

 その場合はもしかしたら、別の令嬢が魔物になっちゃうのかもしれないけど……。


 だとしても、私は自分が可愛い!!


 なので、どうやって知り合ったのかをちゃんと思い出さないといけないわけだ。

 うっかりとか、そんなことは許されない。

 何せ私の人生が、命がかかっているんだから…!!



 とはいえ、なぁ……。


 結局ゲームで語られたのは、王太子であるフレゥからの言葉だけ。

 それを頼りにするのであれば、王妃様主催のお茶会で私と出会ったと言っていたけれど…。


 ぶっちゃけ、いつのお茶会ですかね?


 何歳とか、こういう時期とか、詳細は何も語られてなかったわけで。

 そうなると、見当のつけようがないんですよ…!!


 分かってるよ!?ライバル令嬢の詳細なんて、ヒロインに語っても仕方がないんだってことは!!

 分かってるけど…!!

 出来ればもう少しぐらい詳細を教えておいて欲しかった…!!


 子供のころって言ってたから、きっとこの世界の社交界デビュー以前の話なんだとは思う。

 確か十五歳でデビューするって、前にマナーの先生も言ってたし。


 でも、それ以前となると……。


「まだ、十年も先の話……」


 横になっているのに、思わず膝をつきたい気分になってしまう。


 これじゃあ予想できる期間が長すぎて、もはやそれまでの間全てのお茶会をお断りした方が早いんじゃないかとさえ思えてくる。


 流石に無理だろうけど。

 いや、確実に無理だけど。


「でも普通に考えれば、王太子様の婚約者候補を探すお茶会のはずだから……。つまりたくさんの令嬢が集められる時を狙って欠席すれば、ワンチャンあるってことじゃ…!?」


 将来の側近候補を探す顔合わせなんかは、今もう既に行われているはずだ。

 いや、もしかしたら王太子様が生まれてすぐに始められていたのかもしれない。


 ちなみにゲームのキャラクターだと、同じ年齢の宰相家の次男であるリジオン・ウストマチュスとかがその中に含まれていたはず。

 彼は、何だっけ…?紫がイメージカラーだったかな?

 しかも次男だから、常に未来の王の側につけても問題ないとか言われていたはず。


 あれだね。長男だったら家を継がないといけないからね。そうしたら未来の宰相様だもんね。


 その分嫡男ではなかったからこそ、完全なる側近として側においてもらえるとか何とかって、彼のルートでは嬉しそうに言ってたっけ。

 貴族で嫡男じゃなかったことを喜ぶなんて、そうそうないはずなんだけどね。あの人割と王太子様一筋って感じだったから。


「そういえば、そのせいで薄い本とか出されてるとか言ってたな……」


 餓えたお姉さま方にとっては、格好の餌食だったんだろうな。

 そういう方向でとらえて、どっちが右とか左とか……。


 あ、いや、違う。今はそんなことを考えてる場合じゃない。


「もういっそ、お父様に出たくないって直談判する?」


 戻ってきた思考の中で、一番強引な力技を口にする。

 でもたぶん、これが一番現実的なのも事実なんだよなぁ…。


 病弱設定も考えたけど、今のこの状況がずっと続くと思ったら耐えられそうになかった。


 主に私が。


「うん……なんか、本当にそれが一番いい気がしてきた…」


 幸い今の私のお願いだったら、何でも聞いてもらえそうだし。

 何より我が家は公爵家だから、多少の融通は利くはずだ。


 それに。


「うん……。うん、よっし!大丈夫!お父様は私に甘いはずだから!!」


 思わずベッドの上で立ち上がって、握りこぶしを作って宣言するけれど。


 実際、これまでのお父様は私に甘かった。激甘だった。

 欲しいと口にした物は何でも買い与えてくれたし、嫌だと顔を顰めただけで目の前から下げられたものも数知れず。


 …………。

 ゲーム中のローズって、よくこんな環境下で我儘令嬢に育たなかったな…。


 あれか。恋は人を変えるっていうのが、良い方に働いた例だったのか。

 だとしたらその後の展開が本当に残念過ぎる。


 とはいえ、流石にこの状況に甘えすぎるのも良くないだろう。


 今後は本当に欲しいもの以外ねだらないようにするとして、今回だけは何とか通してもらおう。



 そう思っていた私の考えこそが甘かったのだと、この時の私は何一つ知らなかったのだった。




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