短編集
デート編
デート編
「ちょっとルーカス、機嫌直してよ……。しょうがないでしょ?」
「分かってる……。分かってはいるんだよ……。」
呆れたようなアリシアの物言いに、そう言いながらもどこかどんよりとした空気の消えないルーカス。
何も最初からルーカスが落ち込んでいた訳では無かった。
麗らかな日差しの中、アリシアとルーカスは隣あって城下町を歩いていた。
アリシアの婚約破棄から少し経った後のこと。
正式な発表は時期を見てということで現在は秘匿されてはいるものの、二人は内々に婚約を結んだ。
少しずつアリシアの硬い態度も無くなっていき、普通の恋人同士のように接する事が出来るようになってきた……と思う。
着々と距離を縮め、やっとデートにこぎつけたのだ。アリシアから承諾を貰った時はもうそれはそれは天にも昇るような心地がした。手を繋いで隣を歩いて、アリシアの好きそうなお店を回って、良い雰囲気のレストランで食事をして、あわよくばキスもできたり……なんて。
だが、そんなルーカスの薔薇色な雰囲気は長くは続かなかった。
それは出かけに父から下された唐突な一言。
『あ、まだ正式な発表がされてないから、二人で出かけるのは良いが、距離感を間違えるなよ。あくまでもお前たちは世間的には王太子と公爵令嬢だからな。分かったな?』
一瞬にしてルーカスのあらゆる妄想が儚い夢と崩れ去った。
王太子として、感情を表に出す事の少ないはずのルーカスが、真っ白な灰になったかのような様子を気の毒に思ったのか、しきりにアリシアが慰めてくれた。
うん、やっぱりアリシアは優しいな。
悟りを開いたかのようにそんな事を考えていた時、丁度人通りの少ない道に差し掛かった。
思考の大半を現実逃避に使っていたルーカスは、アリシアに誘導されていたことに気が付かなかったのだ。
昼間とはいえ、裏に繋がるかのような薄暗い道では何が起こるか分かったものでは無い。
光が強い場所は、必然的に影も濃くなる。
この城下町は国内一と言っていいほど栄えているが、スラムも存在する。
身なりのいい男女がこれよりも奥に進んでしまってはどんな目に合わされるか分かったものではない。
慌ててアリシアを連れて引き返そうとした時、不意に彼女に首元のスカーフを掴まれた。
思わずバランスを崩し、アリシアに覆い被さるような形になる。 咄嗟に彼女の腰を支えたことで、崩れ落ちる事がなかったのはせめてもの救いだろう。
「大丈夫?アリシ……ぁ?」
唇に触れたのは、柔らかい感触。色も何も感じない、ただ軽く触れるだけの接吻。唐突な彼女の行動にルーカスが固まっていると、
「だ……誰も見てないし……と、思って……?」
目の前には真っ赤になったアリシア。きっとあまりの落ち込みように、慰めるための最終手段として恥ずかしがり屋のアリシアの精一杯なのだろう。
可愛くて可愛くて、もう、頭はいっぱいだった。
だが、アリシアはそれだけでは終わらなかった。
「このくらいなら、許されるでしょ?……いとこだもん。っ……ちっちゃい時はよくしてたでしょ?」
そう言ってその繊手をルーカスの指に絡めて来た。
「わ、私だって楽しみにしてたんだもん……っ!」
そう言って真っ赤になりながらも、1層力強く手を握ってくる彼女のあまりのいじらしさに、ルーカスの先程までの暗い雰囲気は何処かへ飛ばされてしまったようだ。
ルーカスは、自分からの一方通行ではやく、アリシアも自分を、強く想ってくれているのだと再確認出来たことで今回の不満は帳消しどころかお釣りがくる程の上機嫌となったのだった。
その後、街中のあらゆる場所で仲のいい二人が目撃されたと言うが、あまりの微笑ましさに市民達も、国王も、遠目で様子を伺いながらも彼らを見逃したと言う。
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