第8話
パーティー編8
そんな彼らの、特にルーカスの様子を見て、周囲の者たちは一つの可能性に思い至った。
――彼女こそが、彼が長年想い続けていた人なのだ、と。
適齢期ギリギリでもまだ婚約を発表しないルーカスにはずっと好きな人がいるらしい、と言うのは社交界で有名な話だった。
そして、それが叶わない恋であろうという事も。
そしてそれを裏付けるかのような行動を彼は見せていた。自分と釣り合う身分の女性が言いよってきた時、彼は決して邪険にはしない。が、当たり障りのない態度しか取らず、常に適切な距離感を保っていた。
ところが、目の前の彼の様子はどうだろうか。
顔を真っ赤に染めあげている彼女に蕩けそうな甘い視線を送り、砂糖を煮溶かしたような声で囁く。
完全に初めて見る姿だった。
会場の視線はルーカスに、そして自然とアリシアに向いていた。
一見して冷たく見える美貌に、先程の鋭い雰囲気とうって変わり、無垢な少女のような表情を浮かべるアリシアの姿は、えも言われぬ魅力があった。
何事かを囁きあっていた彼らは、互いの手を取っていた。どうやら落ち着いたようだ。先程の様子からは信じられないほどに堂々とした彼らのその姿は王者然としており、自然と背筋が伸びるような、そんなプレッシャーを放っていた。
「紹介しよう。私の婚約者であるアリシア嬢だ。長い長いわたしの片想いからようやく振り向いて貰えたんだ。」
ルーカスの言葉にアリシアがふわりと優雅に礼をする。完璧なその姿に、そこここから自然と溜め息がこぼれ落ちる。
「アリシア・ツェローラです。どうぞお見知り置きを。」
妖艶に微笑んだ彼女に、ルーカスを狙っていた女性たちや、娘を嫁がせんと画策していた者たちは完全に勝機が無いことを悟った。
ルーカスそっくりな色彩にツェローラ公爵家という名前、それひルーカスの台詞。社交界でまことしやかに囁かれていた噂が事実であったことがここに示されたのだった。
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