第26話

ルーカス視点26

しかし残念な事にメアリーは詰めが甘い。

確かにターゲットは上手く動かせるのだが、周りに気を配るということが全く出来ない。

今回のローザ然り。

少しでも疑ってかかる者が居れば、簡単に看過されてしまう。

アリシアやオリバーのような、よく言えば素直で純粋、悪く言えば箱入りな世間知らずな人間は騙されるかもしれない。


だが、ルーカスのように常に周囲が自分にどのような感情を向けてきているのか、自分を利用しようとしているのか、向けられる笑顔の裏に悪意が隠されているのではないか、そんなことを考え続けながら人と接してきた者や、ローザのように実家の関係で商人達との腹の探り合いを経験している者達は騙せない。


そうは言ってもローザやルーカスはあくまで貴族や王族。本当の深淵に触れてはいない。

それに看過されてしまうのならばやはりロキの方が上手だ。

鍛えれば上手く使えるかも知れないが、ああいう手合いのものは自分の利益を最優先に考えるものの、物事を深く考えることはない。上辺だけを見てより利益を得られそうな方に飛びつくタイプだろう。

自分の手の内を見せるのは危険だ。

そんなリスクを犯してまで手に入れるようなものでは無いだろう。


だが、自分の敵対する者の手に渡ると厄介だ。

徹底的に潰して消してしまおう。


丁度アリシアからその場の主導権を渡されたルーカスは裁かれた後の彼女の行く末を考える。


アリシアは心優しい。いや、甘いのだろうか。

本人は自覚は無いだろうが、やはり大事に大事に、真綿でくるむように可愛がられて育てられた深窓の令嬢なのだ。ルーカスが考えている事を知ってしまったらきっと気に病んでしまうだろう。

例え自分を心配してくれるのであろうとも、彼女には心穏やかでいて欲しい。

この後も秘密裏に処分してしまおう。


ルーカスの心中などつゆ知らず、メアリーは喚き立てていた。自分が粉を掛けようとしていた相手に牙を剥かれている今の状況はきっと彼女にとっては惨めで耐え難いものだろう。


だが、それでペースを乱すのなら丁度いい。

それも存分に利用させて貰おう。

同情を引こうとしたってそうはいかせない。

先に道理を破ったのはあちらだ。

それならば理解する必要なんてどこにも無いのだから。

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