第19話
ルーカス視点19
ルーカスは、公爵邸へと向けて馬車を走らせていた。ゴトゴトと規則的に揺れ、麗らかな日差しが差し込む車内は程よい気温で、気持ちのいい眠気を誘ってくる。
これから話すであろう内容とは正反対のような清々しい天気の日だった。ルーカスは、アリシア達が下校する時間に合わせて公爵邸へと向かう。雲ひとつない空は、季節柄まだ空は明るく、その高い所に太陽が我が物顔で鎮座していた。
向かいの席には、秘書のような役割として、ロキが座っている。本来ならば彼の業務では無いのだが、内容が内容である。関係のない他の人に聞かせられるような内容では無いのだ。
ルーカスの部下は皆生真面目で、人の話を部外者に漏らすような人間はいない。
だがしかし、人間、どこでうっかり口を滑らすか分からない。信頼はしているものの、他の人に聞かれて困るような内容は、聞かせるのをなるべく少人数に絞るに限る。
その点、雇い主が国ではなく、ルーカス個人であるロキは都合のいい人材だったのだ。
ルーカスが向かいに座るロキをじっと見つめていると、手元の書類を確認するために伏せられていた睫毛が上がる。正面のルーカスをまじまじと見つめた彼の口角がみるみるうちに上がっていく。
やっと自分を救い出してくれた、敬愛する主の初恋を叶えるために動くことができるのだ。これで笑わない方がふしぎだろう。
彼の笑顔を見たルーカスは、つられて自然と微笑んでいた。何となく目をそらすタイミングを失ってしまった彼らは、何を思ったのか唐突ににらめっこを始めた。――――――まぁ、暇だったのだろう。
とはいえ、さすがに往来の人々に変顔を見られるわけには行かず、ただお互いを無言で見つめあっていただけだが。
ついついそんなくだらないことに夢中になってしまっていた彼らは、いつの間にか馬車が公爵邸に着いていることに気が付かなかった。
中々降りてこない二人に業を煮やした運転手が、馬車の扉を開けると、そこはすっかり二人の世界で。
この理解不能な光景に当てられた彼は暫くその場から動くことが出来なかった。
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