第18話
ルーカス視点18
ルーカスの元にアリシアから連絡が来たのは、翌日の早朝であった。
本来ならば、貴族同士であれば様々な手順を踏んで、何度も検閲を通してから文書を交わす。
直接家を訪れる場合でも、どんなに急でも前日までには伺いをたてるのだ。
しかし、アリシアは昨日、ルーカスと別れたその足で友人宅――リヴァノフ伯爵家を訪れたそうだ。
異例とも言えるこの行動の速さには、リヴァノフ伯爵令嬢・ローザの協力があったのだ。
王城から出ると、アリシアは直ぐにその馬車の中で通信器具を使い、ローザに連絡をした。
連絡を受け取ったローザは、裏口の場所をアリシアに伝え、そこでアリシアが現れるまで待機し続け、家族や使用人達に見つからないように自室へと通したのだ。
そこでアリシアは、ルーカスとのお茶会のことのあらましを彼女に話し、ルーカスが会いたがっている旨を伝えた。
何時でもどこでも問題ないという彼女の返答を受けたアリシアは、二人を公爵家へと招く事にした。
リヴァノフ邸に突然王太子であるルーカスが現れるとなると大騒ぎになるだろうし、第一、宣告から訪問までの期間が短すぎる。これでは伯爵家が満足に準備出来ないだろう。
王城に招くこともまた、大きく問題になってしまう。未だに婚約者がいないルーカスが名指しで令嬢を呼んだとなれば、誤解が生まれてしまう可能性がある。
それならば、一番融通が聞くのはアリシアの実家であるツェローラ公爵邸だ。
彼女の家になら、いとこであるルーカスがお忍びデート訪れてもおかしくは無いし、友人であるローザが訪問するのにも何の問題もない。
加えて、帝国唯一の公爵家という立場から、突然の来客がある可能性は常に考慮され、いつ誰が訪れようとも、そつなくもてなすことが出来る用意がある。
それが決まると、ローザに明日は学園から一緒に公爵家へ向かおうと誘い、了承を受けると直ぐに公爵家へと戻り、ルーカスへの手紙を書いた。
こちらも正規のルートを辿ろうとすると大量の検閲を乗り越えなくてはならない。
内容も内容であることな上、そんなことをしていては明日に間に合わない。
アリシアは、公爵家から王城へと繋がる秘密のルート(これは、当主である公爵と、後継者であるアリシアしか知らないものだ)を使ってルーカスの元へと手紙を届けた。
このルートは弟を心配した国王と兄を心配した公爵が万が一の時、どちらかの家に逃げられるようにと作ったものだ。故に、王族の寝室に直接繋がっているのだ。
今回使うにはうってつけだった。
なんとかルーカスの寝室に忍び込んだアリシアは、彼が眠っていることを確認すると、彼が執務の時に使う机の上に置いて元きた道を戻って行った。
…………ルーカスは意識があったのだが。
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