第16話

ルーカス視点16

「……はい。何でもお聞きくださいませ。」


アリシアはまっすぐルーカスを見据える。

そこには先程までの飄々としたような気配は微塵も感じられない。どこか覚悟を決めたようにも見える。



「……僕が学園に在籍していた、半年前までは君と婚約者は上手く行ってると思っていたんだ。でも、それにしては君がショックを受けているようには見えなくてね……。この事は知ってたの?」

「…………流石ですね。仰る通りです。この事は存じ上げておりました。ですが、私は国内唯一の公爵家の跡取りです。事を荒立てる訳には参りません。ですので、見て見ぬふりをしていたのです。」

「辛くはなかった?」

「いいえ、全く。あくまでこれは家同士の契約ですから。実害が出なければ放っておく予定でした。でも、何故ルーカス様がこの事を?」


なるほど、契約。

では上手くいっていた訳では無いのか。

あくまで次期公爵として弱みを見せないように外では気をつけて振舞っていただけのようだ。


ちょっとほっとしつつ、ルーカスは次の資料をアリシアに手渡す。本当は、ただ『心配だった』だけなのだが、彼女のこの婚約への想いを見るに、それだけでは納得しないだろう。

あくまでルーカスはこの婚約においては他人なのだ。口出しするからには周囲とアリシアを納得させ得るだけの大義名分が必要だ。

そのためにもアリシアがオリバーを好いている事を懸念したのだが、それは杞憂に終わったようだ。


まだ資料を見ている最中のアリシアに声を掛ける。



「そこに書かれている人は知っているね?」

「はい。……メアリー・ポーラ男爵令嬢ですね?」

「そうだ。彼女は学園に通っているだろう?その……僕がまだ通っていた頃にね、猛烈なアタックを受けていて……正直迷惑だったんだ。」


まぁ、とアリシアが目を丸くする。

どうやら全く気付いていなかったようだ。

他の女に言い寄られている所を見られていなかったのはよかったが、それはそれでちょっと傷つく。

今日は感情がジェットコースターだ。



「その上、その方法が度をすぎていね。疑問に思って調べてみたら男爵家自体がきな臭い。それが、その資料の中身。で、その延長で彼女が僕と同時にアプローチを仕掛けていた相手が君の婚約者だった、という訳だ。知ったからには伝えておこうと思ってね。」

「うわぁ……」


『同時にアプローチ』の辺りで思わずといった風な様子でアリシアから声が漏れる。

分かる。分かるぞアリシア。初めて聞いた時、僕も同じ事を思ったからな。

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