第9話
ルーカス視点9
その後の学校生活でも、ピンクの令嬢は、何度か出会い頭にぶつかられたり、目の前で転ばれたりと目にすることが多かった。
さすがに不愉快に思って名前を調べさせると、男爵令嬢であった。それも、最近金で爵位を買って平民から成り上がったポーラ男爵家の娘、メアリー・ポーラ男爵令嬢。
校舎が別れているのに何故こうも頻繁に出会うのかと疑問に思ったのだが、学園にいる間、彼女に監視を付けさせて見てその原因は発覚した。
彼女はルーカスのスケジュールを把握し、彼を待ち伏せていたのだ。正直、その執念が気持ち悪い。
「何でわざわざこんなめんどくさいことを……?」
「それは貴方の気を引く為でしょう。」
城の自室でひとりごちたルーカスの言葉に反応が帰ってきた。顔を上げるとそこには、ルーカスが令嬢に付けた監視役であった。彼はルーカスと友人とも言えるような存在であり、ルーカスのアリシアへの想いを知る程の親しい相手だ。
「……学園の規則を破ってまで……?」
「彼女は平民から貴族に成り上がった両親を見て育っています。自分も……と考えるのも自然と言えば自然では?」
「僕の目の前で転ぶことがか?」
「あなたに助け起こされるのを待っているのでしょう。」
監視役は、よく分からんなと首をゆるゆるとふるルーカスに苦笑しつつ机上の書類を片付け、新たに一枚の報告書を置いた。
「……?お前に頼んでいたものはこれで全てだったとおもったのだが……?」
しかし、ルーカスにはピンと来ないようだ。
監視役はただ微笑んで書類に目を落とすように促す。
首を傾げながらも特段断る理由もなく、ルーカスが視線を落とすとそこにアリシアの婚約者であるマーシャル侯爵令息――オリバーにピンクの令嬢、もといメアリーがルーカスにしたような事と同じことを繰り返しているとの事であった。
「……これは……?」
「この調査はあくまで私の独断です。その報告書は破り捨てて頂いても構いません。……勿論、他のことに使われても。」
メアリーの監視を依頼された彼の仕事内容は、ルーカスの前に現れる前後に何をしているのか調べると言うだけの至ってシンプルなものだった。
しかし、偶然この場面を見かけた彼は、主君の初恋を実らせるなにかのきっかけにでもなればと思い、仕事内容とはまた別に提出してみたのだ。
書類を見るルーカスの顔はだんだん笑みを深くしていく。そして、彼に一言。
「マーシャル侯爵の次男を監視しろ。僕は何も見ていない。が、ただ、可愛いいとこの心配をしているだけだ。」
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