第8話
ルーカス視点8
式が終わり、簡単な立食式のパーティーが始まる。
学園とはいえども、社交界の縮図とも言えるこの場で無闇矢鱈と誰かと話す事は、王太子であるルーカスにとって好ましい事とは言えない。
彼は飲み物を片手に壁際に寄り、時折挨拶に訪れる者たちを適当に流しつつ式場全体を見回していた。
先程目に付いたピンクの令嬢は、あちらこちらにふらふらと話しかけに行っているが、適当にあしらわれて完全に浮いている。さもありなん、誰も関わりたくは無いのだろう。
顔立ちはそこそこなのだからそれ相応の格好をすればいいものを。まぁ、アリシアには到底及ばないどころか彼女ならあの奇抜なドレスもきっと着こなしてしまうのだろうが。
緩んでしまった口元を隠すように手に持っていた飲み物を一気に呷る。
口に入れたそれを嚥下した直後、凄まじい衝撃がルーカスを襲いった。手にグラスを持っていた為、満足に受け身をとることもできず、床に倒れ込む。
状況を把握しようと顔をあげると、視界いっぱいにピンク色が広がった。思考が追い付いて来ないルーカスが固まっていると、もぞもぞとピンクの塊が動いた。
「ごめんなさぁい、ルーカスさまぁ、ぶつかっちゃったぁ。ふらふらしちゃってぇ……」
金色の瞳をうるませて、大きく開いた中から除く控えめな胸元を精一杯寄せ、口を俗に言う『アヒル口』にした状態で顔を覗き込んでくる。
「酔っちゃったかもぉ……?」
酔うわけがない。
ここにいる殆どが未成年なのだから、アルコールなど用意されている訳が無いのだ。
ルーカスの気を引く為と見て間違い無いだろう。
心を無にしたルーカスは、彼女を自分の上から退けたあとさっと助け起こし、目を合わせないようにしながら声をかけた。
「そうか、空気に当てれたなら一度外に出て、風に当たってくるといい。」
「えぇ〜でもぉ、さっき笑いかけて下さったじゃないですかぁ……。ルーカスさまが一緒にいてくれたほうがぁ……」
「きっとスッキリするから。」
なおも意味の分からないことを口走るピンクの令嬢に顔を引き攣らせ、ルーカスが被せ気味に続ける。
ルーカスさまがそう言うならぁ……としぶしぶながらもなんとか去っていった嵐のような令嬢の背中を目で確認しながら、ルーカスはずるずると壁に背を預けた。
「一体何だったんだ…………。」
天井のシャンデリアから注ぐ暖かな光が今日はやけに暑く、うっとおしく感じたのだった。
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