第5話
ルーカス視点5
厳しい顔で目を瞑り、ほんの少しの間天を仰いだ国王は、暫しの後、真っ直ぐルーカスを見据えた。
しかし、その表情はなんとも言えない複雑なもので、いつもの彼より一回り小さく見えた。
苦虫を噛み潰したような顔で国王が口を開く。
「アリシアの事については……我々にも責任の一端があると思っている。……お前はずっとわたしたち二人にどれほど彼女を想っているのか何度も何度も説明会してくれていたね。勝手に彼女や彼女の両親に話す事も出来たろうに、お前はそうしなかった。あくまでも王族として相応しい振る舞いを貫き通した。次期国王であるお前に逆らえる者はいないからね。…………わたしはどうにかお前の願いを叶えてやりたいと思う。だが、勝手に決めることが出来ないのは理解してくれるかい?王妃と相談してみよう。」
まさか前向きな返事を貰えるとは思っていなかったルーカスは思わずぽかんとしてしまった。
掛けられた言葉の意味を理解すると、あとからじわじわと嬉しさが込み上げてくる。
今はまだ信じられない気持ちと半々くらいだが。
「本当に宜しいんですか……?てっきり反対されるかと……。」
そんなルーカスの言葉に、国王は優しく微笑んで話し始めた。
「お前は幼い頃から聞き分けが良くてわがままを言わない子だった。王子として文句の付けようもないほど優秀だ。でも、あまりにも完璧であろうとするその姿に少し心配していたんだ。……そんな息子の初めてで唯一の可愛い願い事を叶えてやりたいだなんて親として当然だろう?」
それは、ルーカスが初めて聞いた彼の父親としての愛息子へ率直な言葉だった。
家族として比較的仲の良い方ではあるとは思っていたが、彼は心からルーカスを愛し、そしてずっと気にかけていてくれていたのだ。
国王とは、等しく国民を愛し、守り、時には盾となる職務である。だから、一人一人に細かく目を向けることは本当に大変な事なのだ。
それを正しく理解しているルーカスだからこそ、その喜びもひとしおだった。
諦めなくて良かった。勇気を出してみてよかった。アリシアの事だけじゃない。きっと今日のことが無ければ気が付けなかったであろう事があった。
つい先程までこの世の終わりのような心情だったのが嘘のようだ。
――まだ少し、頑張ってみよう。――
そんな気持ちになれた。
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