第3話

ルーカス視点3

間に合わなかった。


とてもでは無いが、パーティーに出たりするような気分ではない。それでもそんな事はお構い無しに社交シーズンは始まる。

あと1年で一般的に王族の婚約者が決定するタイムリミットとなる。

今期の社交界ではあらゆる家が血眼になって娘を売り込みに来るだろう。

これ以上婚約を先延ばしにするのは宜しくない。

王太子ともなれば特に、彼の婚約者が決定するではその一縷の望みにかけて我が子を次期王妃にさせんとする貴族が多く、貴族間の見合いが進まなくなる。


頭では分かっているのだ。

でも心が追いつかない。


王族として、王太子として望まれるのは次代に血を繋ぐ事。ルーカスを産んだ後暫く体調が芳しくなかった王妃にはもう子供は望めない。王妃を心から愛する王も側妃を娶ってもう一人スペアの跡取りを作る事は何があっても無いだろう。

褒められた行為では無い事は分かっている。

だが、それでもせめて時間が欲しい。

社交シーズンは約半年。そんな短い期間で10年以上あたため続けてきた想いを断ち切れる程自分は強くない。


つい先日、ある貴族が王室に謀反を企てた。

遥か昔の王族の傍系の血の流れを汲む者を旗印にして国をひっくり返そうとした。

その貴族は謀反を企てる少し前に禁止薬物の輸入への関与が発覚し、爵位を二段階降格させられたのだ。密輸の決定的な証拠が見つからず「関与」という形で済まされたが、証拠が出てくるのも時間の問題だったのだろうか、追い詰められた彼等は揉み消しにかかったのだろう。


だが、それが成功する事は無かった。

子供特有の行動力と、持ち前の頭の良さで密輸と謀反、どちらの証拠もルーカスが見つけてしまった事で謀反は失敗に終わった。


その事について、父王から何でも好きなものを褒美として取らそうと言われている。その時は特に欲しい物も無かったからそのまま放置していたのだが、これを使う絶好の機会では無いだろうか。


まだこの年齢ならばぎりぎり子供のわがままで押し通せるだろう。周りが納得してくれるかどうかはまたべつ問題だが。兎に角やってみない事には始まらない。


昼に程近いこの時間ならばきっと謁見が終わったであろう父は執務室に居るはずだ。少しなら時間を取ってくれるだろう。昼食が始まる前に急がなければ。急いで訪れたものの、やはり少し逡巡してしまう。


一瞬の後、意を決したルーカスは執務室の扉を叩いた。

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