番外編2ルーカスside

第1話

ルーカス視点1

最初にその知らせを聞いた時、足元が崩れていくような感覚が襲った。


目の前が真っ暗になって自分の世界を構成する全てがガラガラと音を立てて崩れていくような――――――






彼女を初めて見た時、なんて可愛らしい生き物だろうと思った。

産まれたての小さな赤ん坊。

柔らかそうなまろい頬にぷくぷくとした手。

すやすやと小さな寝息と共に上下する体は白くて可愛らしいおくるみに包まれて母である公爵夫人に抱かれていた。

もっと近くで見ないかと言うお誘いに素直に頷いたルーカスが顔を近付けると閉じられていた瞼が持ち上がり、深い海を思わせるサファイアが姿を現した。

大きく見開かれたそれはやがて細められ、きゃらきゃらとした可愛らしい声があがる。

その瞬間、彼は三つ下の小さないとこに心を奪われた。





少し成長して彼女が歩けるようになると、どこに行くにも必ず後を着いてくるようになった。

危険が少ないと判断した公爵夫妻、国王夫妻は二人を一緒に居させることに異論はなかったからだ。

小さな歩幅で置いていかれないようにぽてぽてと走る姿は可愛らしくていつまでも見ていたかった。

まだ滑舌が良くない彼女は「るか、るか」と自分を呼ぶ。

ずっと一緒に居たいと思うと、自然と彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩くようになった。

時折しゃがんで目線を合わせてあげるとそれはそれは嬉しそうに笑うのだ。

毎日毎日彼女への想いは加速する。



ルーカスが7歳になると、元々の王族としての教育の他に王太子としての帝王教育が始まった。少しずつアリシアといられる時間が減ってきた。それが寂しくて悲しくて少しでも彼女と共にいる時間を作る為に必死で取り組んだ。

頻度は減っても、相変わらず彼女は自分を見つけると嬉しそうに笑い、時には泥だらけになりながら遊んだ。


そんな関係が少しだけ変わったのはアリシアが6歳になり、淑女教育が始まった時だ。

久しぶりに会った彼女は僕を「ルーカス様」と呼んだ。

どこか他人行儀で悲しくなった僕はいつも通り呼ぶよう頼むが、愛称である「ルカ」と呼ぶのは彼女が拒んだ。

二人はいとこではあるが、そこにはれっきとした身分差が存在する。そして、家族以外で愛称で呼び合うのは恋人や婚約者のみだ。

その事を知ったアリシアは早速実践したのだった。

どうにか妥協案を探したが、それでも私的な場で「ルーカス」と呼んで貰う事にするまでしか出来なかった。

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