第4話


夜の風が頬を撫でて吹き抜けていく。

二人はゆっくりと中庭に続く外廊下を歩いていた。

月明かりに照らされてどこか幻想的に見える。

並んで歩いていた二人は中庭の中程にある小さな東屋に到着した。



「ここで少し待ってて?」


そう言い残すと、ルーカスは足早にその場を離れた。

残されたアリシアは周りの景色を楽しむ事にした。

周りには色とりどりの薔薇が咲き乱れている。中庭の薔薇園には丁度1000輪の薔薇が咲いていると言われている。木や蔓に咲いているものを誰が数えたのかは不明だが。

ちょうど東屋のすぐ近くに生えている黒薔薇は小さな頃、アリシアが街で偶然見つけて植えたものだ。

植えたきりそのままにしてしまっていたものを庭師が綺麗に手入れしてくれていたようで大ぶりの花が丁度満開だ。

少し青みを帯びた月明かりに照らされて怖いくらいに神秘的な景観だ。

耳が痛くなる程の静寂に身を任せて彼が戻るのを待っている。




「アリシア。」


景色を眺めていたアリシアは人が近付いて来ていたのに気が付かなかった。

名前を呼ばれ、振り返ると、そこには穏やかな顔で赤い薔薇の花束を抱えたルーカスが立っていた。

先程アリシアが王宮に到着した際に顔が赤かったのは、大急ぎでこれを準備した為だ。



「さっきはあんな形での告白になっちゃったから。アリシア……いや、アリシア・ツェローラ公爵令嬢。」


笑顔を引っ込め、すっと真剣な表情をすると、ルーカスはアリシアに跪き、花束を差し出した。



「僕には貴女しか考えられません。愛しています。……僕と結婚して下さい。」


パーティー会場での事を気にしていたのだろう。一見すると破談の弱みに漬け込んだともとられかねない告白だったからだ。

だが、彼は10年以上アリシアを待ち続けたのだ。

彼以上に貴女しかいないという言葉が似合う人など考えられないだろう。


差し出したのは12本の薔薇の花束――ダズンローズ。

薔薇にはそれぞれ、感謝・希望・尊敬・誠実・愛情・栄光・幸福・情熱・努力・信頼・真実・永遠の意味が込められている。



「……はい……っ」


しっかりしたプロポーズをやり直してくれた事、短い時間でわざわざこれを用意してくれた事。全てが愛されていると実感出来るもので、気付くとアリシアの目からは涙が零れ落ちていた。


彼女の涙が止まるまでルーカスは腕の中にきつく抱きしめ続けていた。

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