第12話

歩み寄ってきたのは、アリシアと同じパープルブロンドの髪に透き通った深い海を思わせるサファイアの瞳。すらりとした長身の美丈夫。


「記録を撮る時に映像石を起動したのは全て僕だ。」


彼は、アリシアのいとこであり、この国の王太子・ルーカスである。

映像石は記録を撮る時にそれを起動した者が誰なのかという事も同時に記録される。メアリーやオリバーに証拠は捏造されたものだ等と万が一にも言われた場合、疑惑を晴らすのも面倒である。

それならば、例えアリシアの従兄弟であるため完全な中立とは言えなくとも、王族であるルーカスが関わっているのなら表立って疑惑を口にするのは困難になるだろうと考えたのだ。


どうやら目論見は当たったようだ。流石のメアリーも悔しそうにしながらも黙っている。いや、悔しそうにしているのではなく、ルーカスに見蕩れているのか……?

そんな事を考える事その間2秒。

アリシアはかぶりをふってそんな思考を追い出す。


「ではルーカス様。起動して頂けますか?」

「勿論。……いつも通りでいいよ、アリシア。何だか変な気分だ。」

「?……はぁ、分かったわ……?」


様を付けて呼ばれた事に何だか少し不満げなルーカスと不思議そうなアリシア。仏のような顔をしてそれを見守る周囲。怒りで震えるメアリー、完全に固まってしまったオリバー。


カオスである。


ヴヴヴン……

そんな中、映像石の起動音が響く。

スクリーンに映された様に鮮明に浮かび上がったのは学園の校舎の中庭。そこには数人の少女達が集まっていた。



『アリシア様、結局これしか思い浮かばなくて……窮屈な思いをさせてしまってごめんなさい……。』

『大丈夫よ。寧ろこちらこそ面倒な事に巻き込んでしまってごめんなさいね。……じゃあルーカス。録画はお願いね?』

『了解。ちょっと離れたところから見守ってるから。僕の事はいないものと思って普段通りにしてていいからね。』


ホールに少しくぐもった男女の声が響く。

中庭の噴水を背にそんな事を少し話したあと、話題は少しずつ変化していき、やがていつも彼女らが話しているような取り留めのない雑談が始まった。



「……この辺は少し早送りして下さらない?」

「それもそうだ。」


何となくいたたまれなくなったアリシアがルーカスに頼む。会話は聞こえないが映像を見逃すことは無いギリギリの速度で早送りをして行くと、やがて視界の端に着飾ったメアリーが映り込んできた。

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