第2話 「出発」
ある晴れた日の朝。
十歳になった俺は村の入り口近くに立っていた。そして、その近くには俺と同様に荷物を持った同世代の子供達が複数人と、その護衛として村の有志による自警団の男達もいた。
「うん、まさに遠足だな」
和気藹々とした様子に、俺は小学生時代の遠足の気分を思い出し、懐かしい感覚を感じていると。赤に少しばかり黒が混じった髪の無表情の少女、俺の幼馴染であるエレノアが声を掛けてきた。
「ユウ、準備できた?」
「ああ、大丈夫だ。エレンの方はどうだ?」
「…大丈夫。水とご飯ちゃんといれた」
「そっか。なら大丈夫だな!」
「…(こくり)」
俺の言葉にエレノアは頷くも、その間も表情が変わることはなく無表情だが。なんとなく感じる雰囲気は普段とは違いワクワクしているように感じた。
(なんじゃ。この程度の事でワクワクするとは子供じゃの~)
(いいじゃないか、リオルの爺さん。こういう童心に帰るのも案外と悪くないもんだぞ?)
実際、童心に帰って遊びという事は何処か非日常を感じられるので俺としては悪くないと思っていた。
(ふむ‥‥、確かにそうかもしれんの。なら、今日は引っ込んでおくとしようかの)
(あれ、出ていないのか?)
てっきり、一緒に表に出ているかなと予想していただけに、予想外の言葉に俺は驚くが。
(ああ。若いもの同士の所に年寄りが出張るものでもないからの)
(え、ちょっ…引っ込んじまった)
そう言うとリオルの声は聞こえなくなり、何か気を悪くするようなことを言ったかな?と思いながらも気持ちを切り替える。
とは言っても今回のこの遠足という名の遠出はまさに俺にとっては遠足だが、その他の子供たちからすると村の近くにある町にある冒険者ギルドへ行く。それはこれからの将来がかかっている重要なものだった。
(まっ、取り敢えずは子供に戻ったつもりで、気楽に楽しむとしようかな)
既に、
「よ~し。それじゃあ町へ出発するぞ~! 一旦集まれ~!」
「「「は~い!!」」」
号令に周りの子達も集まり始めたので、俺とエレンもそれに混じるように声の主の元へと向かう。
声の主は、今回の村と町の間を護衛するのは自警団のリーダーでもあるライオット。
灰色の髪は短く反り上げ、歳は三十代後半だが体は二十代と言っても通用するほどのもので。
実際、過去に冒険者ギルドで上位ランクの冒険者として活動していたが、怪我をして冒険者を引退。怪我の治療がてら寄ったこの村によった際、仲良くなったこの村の女性と結婚して腰を据えることにして以来、現在は三歳の娘がおり、村人からも、子供たちの憧れの存在でもあった。
そして、そんなライオットを筆頭に日々ライオットに鍛えられた自警団のメンバーが護衛と過剰と思われるかもしれないが、毎年少なからず魔法の才能がある子供たちを攫う人拐いの対策としてはこれが当たり前だった。
(さて、遠足は帰るまで。何が起きるやら)
そんな事を考えているとは露知らずに、ライオットの説明が始まる。
「よし、それじゃあ今日はお前達にとって、とても大切な日だ。だから村と町の行き帰りは俺たちがしっかりと守るから安心しろよ!けど、もちろん油断はしちゃいけないぞ? 外の世界を知るというのもまた勉強だからな?」
「「「は~い!!」」」
「よし、それじゃあツェルマの町へ出発だ!」
ライオットの号令と共に俺たちは移動を始める中で、俺はライオットの言葉に共感していた。
(良い事を言うな、ライオットのやつ)
確かに、外の世界を知ることで外聞が広がり何より、自身の目と肌で感じたことは唯一無二の経験になる事を前世で俺は学んでおり‥‥。
(うむ、確かに外で知ることは内に居るよりも何倍も良いものじゃ)
(そうだな‥‥て、うわっ!? 引っ込んでたんじゃないのかよ!?)
(引っ込んでおくつもりじゃったが、退屈になった)
(…はあ、やれやれ)
と、そんな理由で表に出てきたリオルに対して俺は内心で苦笑いを浮かべながら歩いていると、隣にエレンが来るとそのまま俺の隣に並んだ。
「ん? エレン、どうかしたか?」
「ユウ、緊張してない?」
「え?」
「なんだか、全然緊張してないように感じたから」
「そ、そうか。気のせいだろう…」
視線を僅かに逸らしながらもエレンの鋭さに対して、俺は思わずそう思わずにはいられなかった。エレンの感じている通り。確かに俺は既に今回の町の冒険者ギルドへ行く意味は既にない。何故なら今回の冒険者ギルドへと向かう理由は
だが、それは誰にも言っていない事で知ることは出来ないはずなのだが…。
「‥‥気のせいじゃない。ユウ、隠してる?」
「………何のことかな?」
「‥‥誤魔化さないで」
そう言うとエレンはずいっと俺へと距離を詰める。それによって仄かに香る甘い香りが鼻をくすぐる中、エレンは俺だけに聞こえる小さな声で言った。
「私、知ってる。四年前、轟音と共に山の一角を消し飛んだの、あれはユウがやったんでしょ?」
「!?」
(ほぉ?)
リオルは興味を示し、一方の俺はエレンの言葉も出なかった。なにせあの場には俺だけしかないはずだったのだ。これはリオルにも協力してもらって周囲三キロほどの範囲を調べてもらったので間違いはないはずなのだ。
(一体、どうして俺だと分かったんだ…?)
(ふむ、底が見えぬ。面白い娘じゃの‥‥じゃが)
俺は驚き、リオルはエレンに対して好好爺のように笑っていると、いつの間にやら俺たちは少し遅れていたようで。
「‥‥置いて行かれる。行こ」
「え、ちょ!?」
そう言うとエレンは俺の手を握ると走り始めたのでそれを聞くことが出来ず、結果、何故エレンが四年前の出来事を知っているのかを聞くことが出来ないままに、俺たちは冒険者ギルドのあるツェルマの町へと到着した。
無属性の竜騎士 シウ @shiu2188
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