無属性の竜騎士
シウ
第1話 何事も突然に
「ふう、今日も一日が終わったなぁ…」
仕事が終わり、夕日に照らされる中、車を止めていた駐車場へと歩きながらぐっと背伸びをし、肩の辺りを揉みながら龍星は歩き、やがて自分の車へと着くと鍵を開け、車へと乗り込み背負っていたバッグを助手席に置くとそのまま車のエンジンをかける。
「さて、そんじゃあ帰りますかっ!」
接続した携帯から音楽が流れ始めるなか龍星が乗る車は動き始め、ウィンカーをあげ駐車場から出るとそのまま家への帰路を走る。
龍星の仕事は介護士で、専門学校を卒業した後、現在は地元の社会福祉法人に就職し、現在は介護施設にて働いており、利用者と一緒に働く一部の職員以外とは仲が良く、平凡でしかし楽しいと言える日々を過ごし、今日もまたそんな一日が終わった帰り道だった。
(…あ、そう言えば今日は変な夢を見たっけ…でも、どんな夢だったかな?)
目覚めるまでに見た夢。それがどんな夢だったかな?と唐突に思い出し、それがどんな夢だったかを思い出しながらも走っているとカーブに差し掛かる。
普段からカーブに差し掛かる直前までが直線故に飛ばす人間が多いが、不思議と事故は起きていないところであった。故に油断あった。
(…あ、思い出した!…っ!?)
それは唐突にだった。認識からそれが起きるまで、時間にして五秒もなかったであろうそれ、対向車線走っていた大型のバスが車線を大幅に乗り越え、そのまま龍星の乗る車へと激突してきた。
(マジか…俺、死ぬのかな?)
直後足が潰される嫌な感触に加えて、全身を襲う衝撃、車のエアバッグが作動するのを感じると同時に龍星の意識はまるで映画のフィルムテープを切ったかのように暗転。
何も分からない、何も感じられない世界の中に居た時だった。
「やれやれ、まさかこうも早く死ぬとは。これは一から鍛えてやらねばならぬなっ!」
そう初老の男の声と共に、腕をに引っ張られるような感覚と共に俺は暗い世界から釣りあげられると、そのまま眩い世界へと放り出され、放り投げられた先にある光。その眩さから手をかざして目を守ろうして。
「うにゅ(え)?」
光から目を守ろうとして開いた視界の先のその手は、赤ん坊の手で。
(よう、ようやく目覚めたようじゃの、龍星よ)
更に、先ほど俺を光へと引っ張り出した初老の男性の声が頭の中に響いたのだった。
俺、
そんな中でも学校に通ったのは、まあ父親が怖かったのもあるが、何より母がいない中で俺を愛し、育ててくれた祖父母、そして実の子供のように接してくれた叔父叔母の存在が大きかった。
そして、小学を卒業するもいじめは相変わらず続いたが。そんな中でも声を掛けてくれる友人もおりなんやかんやありながらも中学を卒業。
その後はどうするか悩んだが。
結果福祉学科のある高校を受験し、合格。後はひたすら勉学に励んでいる中で、幾つかの不幸が起こった。
端的にいえば、高校時代に祖父母の病死、叔父叔母の事故死など幾つもの不幸が重なった事だ。
だが、そんな中で、父さんは俺を初めて励まし、励ましながらも俺を卒業させるために仕事を頑張り、俺もそれに答えるように、何より父さんへの恩返し、そして応援してくれた家族の為に勉強をし、国家資格を取得した。
そして、少しでも親孝行を果たすために卒業後は働き始めたが、ここで最後の不幸が起きた。想像もしやすいが、父さんの死だ。
無理がたたり、体調を崩しそこからは転がり落ちる石のようにあっと言う間に死んでしまった。だが、それでも俺の中に後悔は無かった。
何故なら、死ぬ少し前に病院から家に戻る事があり、その際にはまだ未成年ではあったが、初めての給料で事前に買っておいた高級って訳ではない酒を一緒に呑み、話した。
それだけだが、父さんはとても嬉しそうに酒を飲んでいて、翌日は二人揃って二日酔いになったのは今ではいい思い出でもある。
まあ、だからこそ後悔はない、とは言い切れないが悔やみきれないほどではなかった。
(お~い!目覚めておるのは知っているぞ!)
(分かってるよ!それで感傷に浸る時間いいだろが!というか、いきなりのこの状況をスムーズに理解できるか!?)
事故死からの目覚めると赤ちゃんになっていて、更に初老の男性の声が聞こえるなど、幻視や幻聴を疑うのが普通だ。だが。
(そんな事を言っとる場合か!今からこの世界と魔法について教える!覚えるまでは絶対に寝かせぬぞ!)
(はぁ!? いきなり無理難題過ぎるだろ!?)
(やかましい!さっさと始めるぞ!)
(ちょ、ちょっと待て!まだこの状況を理解してきて…ああぁぁ!)
そこから、俺は寝ても覚めてもする中(体は寝ている)中で、ご飯の時とそのあとの三十分程の睡眠を取った後。
体は眠りながら、俺はじいさんが作り出した精神空間と呼ぶらしい何もない真っ白な空間にある椅子へと座っており、目の前の教卓に六十代前半といった感じのじいさんが立っていた。
そして、この空間はじいさんが言うには俺の記憶のなかで、それらしいものを具現化させたものらしい。
そして、ひたすらにじいさんからの魔法の講義が続くが、これが思いの外苦痛ではなかった。
何せファンタジー世界の魔法を教えてもらえのであれば、興味が牽かれるのは当然の結果と言えた。
(…という訳で。この世界には魔力と呼ぶ力があるが、それらは二つに分かれるのじゃ)
(二つ…マナとオド?)
(ほぉ、それは知っておったか。そう、大気に満ちる自然の魔力を《オド》と呼び、己の肉体にて作り出した魔力を《マナ》と呼ぶのじゃ)
(なるほど…)
規模を例えるなら、人が作れるマナを池、大気に満ちるオドは海とすれば圧倒的な差があることが理解できる。そんな講義の中で、俺はある疑問を問いかける。
(そう言えば。そもそも、あんたは誰なんだ?どうして俺と一緒にいるんだ?)
(ん? ああ。そうじゃなまだ名乗っておらんかったの)
忘れていた。そう言わんばかりに教卓を消すと、一瞬にしてその姿は全身鎧の姿へと変わり、腰に差してあった剣を鞘ごと抜くと、白い空間に剣を立てる。
(わしはリオル!誇り高き二天龍と契約を交わした竜騎士なり!)
堂々とした、力強い名乗り。それ故に自然でありその名乗りが嘘ではないと真実しかない力を秘めていた。
(竜騎士に、二天龍…?)
何やら中学生が考えたかのような、背中がむず痒くなりそうな言葉を目の前のじいさん、リオルは恥ずかしげもなく寧ろ誇るかなように堂々と言ったことが、より現実味を増していた。
(これ、本当の事なんだな…)
まさに異世界といった感じて。地球ではなく、自分は死んでしまった事に悲しい気持ちになるが。
(さて、名乗りもしたからな。また授業の再開じゃ!)
(…まじか)
感傷に浸る間もなくじいさん、じゃなくてリオルが作り出した精神空間にて、俺はひたすらに魔法の授業を受けることになったのだった。
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