マンネリ化? ~魔法師団ガチバトル~ 2

 ~魔法師団訓練場~


 ゲリラパフォーマンスの最終調整は問題なく終わった。

 なんだかんだで、やるべきことはきちっとやる、魔法師団なのである。

 そのため、時間が結構余ってしまった。


「ねえ団長、試しに俺らでガチの魔法バトルやってみません?」


 若い団員がそんなことを言ってきた。まだ体力も魔力も有り余っていて、持て余している、という感じだ。


「魔法を使った本気の戦いは禁止されているから、それはできない」


 フェリクスは団長として毅然と言い放ったが、内心体を動かし足りないなーとも思っていた。それぐらい最終調整はあっさり終わってしまったのだ。


「団長、本気か練習かどうかなんて、はた目から見て分からないじゃないですか。ねえ、本気って言ったって、そこはやっぱり加減しますよ? 王宮内ですし。やりましょうよー」


「団長、ミラン殿下もそう仰っていたし、やりましょうよ、たまには自由に魔法出したいよなー」


「団長だって今日は魔力持て余してるでしょ?」


 他の団員も賛同してきたが、フェリクスは冷静に制した。


「ミラン殿下はそんなこと仰っていない。マンネリ化の件について考えろと言っていたんだ。魔法師団が平和協定を破ってどうするんだ」


 確かに、私にだって、どこまで強力な攻撃魔法を繰り出せるか、試したい気持ちが全くないわけじゃない……けど、

 合理的に考えて、そんなことに意味はない。

 私たちはエルドゥ王国あってこその魔法師団。

 もし訓練場以外に被害が及んで、面倒なこと……じゃなかった、大変なことになったら、王家に忠誠を誓った魔法師団として、大問題だ。


「君たちが魔力を持て余しているのは分かる。私もそうだ。だけどガチの魔法バトルはダメ……」


「あ、団長は参加しなくてもいいですよ。俺達が勝手にやったってことにしますから」


「え……」


 そんな団員の言葉に、フェリクスは面食らった。団員は「分かってますよ」という顔で言葉を続ける。


「団長にも立場ってものがありますし、そもそも団長は無駄に魔力使ったりしない人ですもんね。そういう意味ないこと、しない人ですもんね、分かってますよ」


「べ、別にそういうわけじゃ……」


「大丈夫、団長が解散の号令をかけて帰ったあと、俺たちが勝手にドンパチはじめたってことにしますから。団長は安心して帰って休んで……」


「わ、私をのけ者にする気!? 私だって本当はやりたいんだから!」


「ええ~? そうだったんデスカーー! じゃあ決まりですね! それじゃ団長、ガチバトル開始の号令、よろしくお願いしまーす!」


「お願いしまーす!」


 私のばかーー!!


 フェリクスは心の中で叫んだ。

 どうしていつも私は乗せられてしまうのか。

 でももうこうなったら、後には引けない。

 訓練場全体に魔法でバリアを張れば、大丈夫……じゃないかもしれないけれど、

 万が一、魔法の被害が出た場所は、修復魔法で何とかして、何事もなかったかのように誤魔化そう!

 

「仕方ないな……。ここは王宮内なんだから、適度に加減することを忘れないように! 魔法師団魔法バトル、はじめ!」


♦♦♦


 夕刻。

 貴族学校を終えたミランは、制服を着替え、魔法師団訓練場にやって来たのだが。


「なんだ? 訓練場に入れないぞ!」


 訓練場にはフェリクスによって全体にバリアが張られていた。魔力がないミランには突破することはできない。


「しかも中で何をやってるんだ、団員たちは? 暴れまわっているように見えるが」


 バリアの中は見ることができた。十人くらいの団員が、浮遊魔法で飛び回り、様々な攻撃魔法を放ち合っている。

 そのまわりには、地面でぐったりとしているその他数十人の団員たちがいた。


(予定ではゲリラパフォーマンスの最終調整のはずだが……攻撃魔法の打ち合いをしている? なぜ? フェリシアも参加しているのか?)


 ――疑問符だらけで茫然としているミランをよそに、バリア内では「魔法師団ガチバトル」が続いていた。



 ~バリア内~



「やりますね、団長! 治癒魔法が得意なだけじゃないんですね!」


 団員の一人がフェリクスに向かって攻撃魔法を放つ。


「見くびってもらっては困る。私は団長として、不得意魔法のないよう、日々訓練している!」


 そう言いながらフェリクスが放った攻撃魔法は団員のとぶつかり、スパークし、消滅した。

 その傍らで、別の団員が悔しそうに離脱する。


「くそ~、俺は魔力切れだ。ギブアップ」


 魔力切れを起こしたり、もともと攻撃魔法が得意ではない団員は、ガチバトルからどんどんリタイアしていく。フェリクスがガチバトル開始前強力なバリアを訓練場全体に展開したので、外に出ることができず、彼らは地面でぐったりとしたまま、魔力の回復を待つしかなかった。

 ぐったりし、くやしそうにしてはいるものの、どこかその顔は満足げだ。魔法を制限なく打ち合った爽快感が現われている。


 現在ガチバトルを勝ち残っているのは、フェリクスを含め数人だった。

 攻撃魔法が得意ではないものは、水の魔法で動きを封じたり、花を大量に出して花粉攻撃を狙ったりしたが、最終的には単純な攻撃魔法の飛ばし合いとなり、結局、攻撃魔法が得意で、もともと魔力量が多いものが残った。

 

「団長、そろそろ魔力切れじゃないですかあ~?」


 フェリクスと対峙している団員が余裕の笑みで挑発してきた。その間にも他の場所でバトルしている団員が放った攻撃魔法がバリアに跳ね返り、フェリクスを襲う。


 フェリクスはその攻撃魔法を優雅にかわし、ふっと笑って見せた。


「それは君の方じゃないの? 私はまだまだ大丈夫だよ。伊達に団長じゃないんだからね」


「自分自身にかけているバリア魔法が解けちゃったら団長、大怪我ですよ? 無理しない方がいいですって」


 団員の言葉はごもっともだった。まだまだ大丈夫とか言って余裕を見せたフェリクスだが、最初に訓練場全体にバリアを張り、魔力を使ってしまっているため、もうほとんど魔力は残っていなかった。自分自身にかけているバリアの魔法ももうすぐ解けてしまいそうだが、もう一度かけるためには余分な魔力を使う。


 気がつけば、残っているのはフェリクスと余裕団員の二人となっていた。

 勝った方が勝ち抜きバトル優勝だ。……あれ? そんな趣旨だったっけ? 適度に手加減してやるんじゃなかったっけ?

 いつも冷静なフェリクスは、頭の隅ではそれを分かっていたが、どうにも体が止まらない。

 これが魔力持ちのさがだろうか?

 余裕団員も、余裕を見せているだけで、そうそう魔力は残っていない。フェリクスは彼の残っている魔力量を冷静に感知していた。

 お互い次の攻撃魔法で決着となるだろう。

 次の一撃で最後、決めようと思った。

 フェリクスが体内の魔力を高めると、団員も「これで決めようってわけですね」体内の魔力を高めた。

 二人が同時に攻撃魔法を放つ。二人の攻撃魔法はちょうど真ん中でぶつかり合い、ひとつの攻撃魔法となってどこかに飛んで行った。

 飛んで行った先には……ミランがいた。


「うそ、ミラン殿下?」


 もう浮遊魔法を発動する魔力も残っていないフェリクスは、地面に着地しながら驚愕した。


 ――訓練場に施したバリアの魔法が解けてる!


 バリアの効果時間が切れたのだ。


 迫って来る攻撃魔法に対して、ミランは王子ファッションの一部である剣を引き抜き、跳ね返す構えを見せた。


(無理です、ミラン殿下、そのおもちゃの剣じゃ)


 フェリクスはミランの元に飛ぼうとした。

 間に合わない。


 ミランは攻撃魔法を受け、訓練場の端にふっとんだ。

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