マンネリ化? ~魔法師団ガチバトル~ 3
「ミラン殿下!」
フェリクスよりも速く、ふっとばされたミランの元へ駆けつけたのは、先にリタイアして魔力が回復しつつある団員たちだ。
「まずい、ミラン殿下に直撃しちゃいましたよ……」
フェリクスと対峙していた余裕団員は魔力を使い果たし、立っているのが精いっぱいだ。今は余裕どころではなく、真っ青になっている。
一方、フェリクスは魔力切れによるおぼつかない足取りで、ミランの元へと急いだ。
すると、先に駆け付けた団員たちの間から、
「君たちは一体何をやっているんだ!?」
ミランの元気(?)な声がした。
「ミ、ミラン殿下、ご無事なんですか」
やっとのことでミランの元へたどり着いたフェリクスは、ミランの何ともない姿に安堵し、うっかり彼に抱きつこうとして、慌ててやめた。
ミランは立ち上がると、
「ああ、僕は大丈夫だよ。とっさに剣で受け止めたからね」
明らかに得意げな顔をした。手にはぱっきりと折れた王子ファッション用の剣。
「本当にどこも怪我していないんですか」
「心配性だな、フェリクス殿は。どこも何ともないって。ふっとんだときも受け身取ったし」
魔力不足でよろよろしながらミランの体を調べるフェリクスに、ミランは苦笑した。恋人を心から心配するその顔は、さっきまでガチバトルしていた魔法師団団長と同一人物とはとても思えない。
そこに、やっと余裕団員が合流した。
「どうやら俺と団長の攻撃魔法、魔力が足らなくて結構しょぼかったみたいですね。これが最後の攻撃みたいな感じで格好つけちゃいましたけど」
ミランが無事なのを知って余裕を取り戻した余裕団員は、冷静に分析する。フェリクスも納得した。
フェリクスも余裕団員も、残りの魔力はわずかだった。したがって、放った攻撃魔法は大した威力がなかったのだ。
その上、お互いの攻撃魔法がぶつかり合ったときに、威力は相殺され、さらに減少したようだ。
「ミラン殿下……何ともなくてよかった……」
フェリクスはそう言いながら倒れた。ミランが慌てて抱きとめる。
「フェリシア……いや、フェリクス殿、大丈夫か? 魔力切れか?」
「大丈夫です……少し時間が経てば魔力は戻りますから……」
団員たちの前だ。立ち上がらないと、と思いつつも、ミランの腕に包まれているともう少しこのまま……と思ってしまう。ほぼゼロ状態の魔力も、どんどん回復していくような気がして、心地いい。
「団長はミラン殿下の腕の中で魔力切れ……ということは、最後に残ったのは俺ですね! ガチバトル優勝は俺! やったー、ひゃっほーい!」
余裕団員はガッツポーズをした。
「わ、私はリタイアしていない!」
フェリクスはミランを突き飛ばす勢いでミランの腕の中から飛び起きた。
「ミラン殿下がご無事なのに安心して、気が抜けただけだ。ちょっと休んだだけ……」
「往生際が悪いですよ団長。夕
おどける余裕団員の傍ら、ミランがツッコんだ。
「ちょっと待て。なんなんだ、ガチバトルっていうのはーー!?」
♦♦♦
~魔法師団団長室~
「結局のところ、また君はうまく乗せられたわけか」
ミランはソファに足を組んで座った。手には紅茶のカップを持っている。
結局、魔法師団ガチバトルの被害は、ミランの折れた王子ファッションの剣だけだったので、このことは有耶無耶に……いや、特にお咎めなしということになった。
その後解散し、フェリクスはフェリシアに戻って、団長室でミランといつものようにお茶していた。
「申し訳ありません、ミラン殿下。バトルも頃合いを見て終わらせるつもりが、つい、本気になってしまって」
フェリシアはバツが悪そうにそう言いながら、紅茶をすする。
「……君は割と負けずぎらいだよね」
「? そうでしょうか。私、諦めは早い方だと思っているんですけど」
青い目を丸くするフェシリアを、ミランのはしばみ色の目が捉える。
あれ? ミラン殿下なんだかちょっと不機嫌? なぜだろう……ミランの表情を正確に読み取ったフェリシアは心の中で首を傾げる。すると唐突にミランが言った。
「ねえフェリシア、君は何でそんなに嬉しそうなんだ?」
「え? 私、嬉しそうですか?」
フェリシアは驚いて自らの頬に手を当てた。知らず知らずのうちに笑っていた……頬が緩んでいた、ということだろうか。もしそうだとしたら、普段心情が表に出ないフェリシアとしては、めずらしいことだ。
対して、心の中が表に出やすいミランは、あからさまに不愉快そうな顔をした。
「そんなに嬉しいのか、団員たちがこぞって君を庇ったことが!!」
「え」
フェリシアは面食らった。「ど、どういうことですか」
「『魔法師団ガチバトルは俺たちが言いだしたことで、団長は最初、反対してたんです。団長を無理矢理参加させたのは俺たちです。だから団長に責任はありません』って、君以外の団員みんながこぞって君を庇ったじゃないか」
「あ、あれは……はは」
フェリシアは笑って誤魔化した。そう。平和協定を破ったことを、ミランが上に報告すると思った団員たちが、らしからぬ真剣さで、フェリシアを庇ったのだ。
正直フェリシアは嬉しかった。
じーんとして、感動してしまった。
最近私って団長の威厳ないなーと思っていたので、なおさらだ。心の底から嬉しかった。
ミランの言葉が図星なので、思わず笑って誤魔化すフェリシアを、ミランは目ざとく追及した。
「その態度……ほーら当たりだ。たくさんの男に庇ってもらってにこにこしてたんだろ」
「ちょ、ちょっと何なんですかその表現」
ミランはふくれっ面をした。「大人の男になりたい」んじゃなかったのか。
「いいね、魔法師団はいい男ぞろいだもんね。君だって男装すればかなりの男前だけど、やっぱり女性なんだねっ」
「ミラン殿下、誤解ですよ。私は団員たちをそんなふうに見ていません……あ、それより『魔法師団マンネリ化』の件のほうが重要ですっ」
「話を変えたな。ますます怪しい。僕だってその気になれば一人や二人……」
「いらっしゃるんですか」
「いや、いない」
「私もいませんよ」
フェリシアは自然にふっと微笑んだ。続いてすぐにミランも破顔する。
二人とも急になんだか可笑しくなり、少しの間笑いあった。
「さて、魔法師団マンネリ化の件だったね」
取り直したように、ミランがスタイリッシュ手帳を取り出そうとした……が、
「今日は遅いし明日にしよう。それより重要なことがある」
とまた懐にしまい、立ち上がってフェリシアの手を取った。とてもスマートで、国の王子らしい所作だ。
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