マンネリ化? ~魔法師団ガチバトル~ 1

 毎朝恒例、早朝の魔法師団自主訓練中、ミランは振るっていた剣を止め、こんなことを言いだした。


「実はさ、マンネリ化しているって声があるんだ」


 剣術の相手をしていたフェリクスは、その発言に気色ばんだ。


「ミラン殿下、マンネリ化って、まさか」


 エルドゥ王国第三王子ミランは、目を伏せ腕を組み、わざとらしくもったいぶって言った。


「魔法師団のパフォーマンスが、だよ」


「あ、なんだ、パフォーマンスか」


 フェリクスは安堵し、無意識にそう漏らす。その態度にミランはちょっとムッとして、


「なんだってことはないだろう、フェリクス殿。君は魔法師団の団長なんだから」


 と抗議の声を上げた。フェリクスは慌てて謝罪する。


「すみません。マンネリ化って言うから、まさかこの物語のこと言ってるんじゃないかと思ってしまって」


「はあ?」


 もしそうだとしたら、この物語の主人公として、フェリクスは危機感を覚えざるを得ない。


「フェリクス殿、君ちょっと大丈夫か? この物語って、なんのことだよ? しっかりしてくれよ。魔法師団がマンネリ化しているというのは、由々しき事態なんだから」


「はい、もちろんです」


 フェリクスは頭を切り替え、ミランを見据えた。そこに、他の団員も「なんだなんだ」と集まって来た。


 団員たちは「魔法師団のパフォーマンスマンネリ化問題」に首を傾げた。


「そんな声があるんですか? 聞いたことないですけど」


「いつも大人気じゃないですか、俺たち」


「お約束の展開のほうがウケるんですよ、魔物を倒してめでたしめでたし、それでいいじゃないですか」


 危機感のかけらもない。


「常に魔法師団の味方だったポンちゃんが魔物側に寝返る、っていうこの前のパフォーマンスは、今までと違った展開で、好評のように思えましたが」


 フェリクスだけは真剣な面持ちでそう言った。


 狸型魔物のポン助は、魔物でありながら、魔法師団のマスコット的存在として、パフォーマンスで活躍している。

 生物になら何でも変身できる魔法を使えるのだが、最近はフェリクスの肩にそのまま乗っているだけで女性陣から「可愛い」と好評である。


「パフォーマンスの内容を変えるんじゃなくて、何か新しいことをやって欲しい、という声が王宮に寄せられているんだよ」


 王宮が発行する「月刊・魔法師団通信」には、読者アンケートが設けられている。ミランによると、その読者アンケートのいくつかに、そのような趣旨のことが書かれていたという。


「新しいこと……ですか。アンケートに例えば〇〇して欲しいなどの提案はなかったのですか」


 フェリクスがミランに問うと、ミランはああ、とひとつ相槌を打って、


「女性ファンからは、団員を数人のグループに分けて、料理対決してほしいとか、踊りながら歌を歌って欲しいとかがあったよ。あといつも同じ制服だからファッションショーやって欲しいって」


 と答えた。それを聞いたフェリクスはげんなりした。

 本当にそれじゃあアイドル師団じゃないか。

 いやもうアイドル師団でいいか。平和だし。

 それが今、私たち魔法師団に求められているなら、やらなくちゃならない……よね。

 ――それでも、それでも……踊りながら歌を歌うのだけは、なんとか回避したい。歌を歌うのだけは。

 どれにするか団員全員で多数決になったら、団長特権で私の一票は三十票分ってことにしよう。


 やっぱり歌は苦手なフェリクスだった。


「女装とかどうですか? 女の人って、俺らみたいなイケメンが女装するの好きでしょ?」


 どこから仕入れた情報なのか、団員の一人がそんなことを言う。


「あ、でも団長は男装してまた女装したらもうどっちなんだよ、って感じですよね! あはははは」


「あははははじゃないっ。真面目に考えなさい。ミラン殿下、女性以外から何か提案はないのですか?」


 団員をたしなめつつ、フェリクスはミランに聞いた。ミランはつられて笑っているのを急いで引っ込め、真面目な顔を作ってこう言った。


「男性ファンは……まあアンケートの回答自体が少ないんだけど」


「月刊・魔法師団通信」は、女性向け雑誌だ。


「魔法師団同士がガチで戦うのを見たいって声がある。勝ち抜きバトルみたいなやつ」


 ミランの答えに、団員たちがおお~と言う声を上げる。


「そういえば、俺ら団員同士、ガチで戦ったことないよな」


「仕方ないさ。エルドゥ王国平和協定で、むやみに魔法を使った戦いは禁止されているんだから」


「一度戦ってみたい気もするけど……」


「無理だって。ですよね、ミラン殿下。俺達が全力で魔法出しまくったら、まわりに甚大な被害が及ぶ危険性がありますもんね」


 団員の問いに、ミランはもっともらしくうんうんと頷く。


「それはそうだよ。ガチの戦いは危険すぎる。勝ち抜きバトル……これは却下、と」


 訓練着の腰ポケットからおなじみスタイリッシュ手帳を取り出し、何やら書き込んだ。

 それを見ながら、ミラン殿下、いつもポケットに手帳持ってるんだ、とフェリクスは思った。

 ミランは手帳をしまうと、ハッとした顔をして、


「しまった、学校へ行く時間だ。問題提起だけして申し訳ないけれど、マンネリ化の件、考えておいてくれ。フェリクス団長、頼むよ」


 そう言うなり、急いで去って行った。フェリクスは団員たちを見回すと、


「こちらもそろそろ終わりにしよう。今日は昼から全員でゲリラパフォーマンスの最終調整があるから、また訓練場に集まるように。それでは、解散」


 声を張り上げた。団員たちは返事だけは元気よくして、ぞろぞろと王宮の建物に戻って行った。

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