着せ替えフェリシア 1

 明後日はミランとデートである。


 フェリシアは私室で、デートに着ていく服を選んでいた。

 魔法師団に入団してから、魔法師団の制服があって必要がないので、ほとんど普段着もドレスも新調していない。


 デートなのに、いつも同じようなロングワンピースっていうのもなあ……。


 柄にもなく「セクシーなの? キュートなの?」と迷いながら、数少ない私服を試着していると、どれもこれもきつくなっていることに気がついて、フェリシアは愕然とした。


 あれ? 私、太った? そんなはずは……まさか、また筋肉ついた?


 そう思って体をひねると、びり、と不吉な音がして、見ると腰の部分の布が破けていた。

 続いて二の腕の部分がビリビリーと裂けた。


 まずい、新しい服買わなきゃ……。


 フェリシアは次の日、魔法師団の仕事を終えると、急いで王都のファッションショップへ向かった。持っている服の中で、なんとか着ることができた、ドット柄のグリーンのロングワンピースに、大きなつばのついた帽子を被って。


「お姉様? お姉様ではないですの?」


 王都の貴族令嬢ご用達のファッションショップに足を踏み入れたフェリシアは、聞き覚えのある声に呼び止められた。振り向くと、そこに立っていたのは、ミランのかつての婚約者、マルガレーテだった。


「やっぱりフェリシアお姉様でしたのね。お久しゅうございます」


「マルガレーテ様……お元気そうで、なによりです。少し雰囲気が変わられましたね」


 一年ぶりに会うマルガレーテは全体的に大人っぽくなっており、変わらない可愛さの中に、ほのかな色気が漂っていた。着ている服も、胸元が開いたブラウスに、細身のパンツスタイルで、儚い少女、というフェリシアが以前抱いていた彼女のイメージは全くない。


「フェリシアお姉様は相変わらずお美しいのですわね。……あら?」


 マルガレーテは一瞬、眼鏡の奥の大きな目を見開いた。そして、そっとフェリシアに耳打ちした。


「お姉様、申し上げにくいのですけれど、ワンピースのお尻の部分、破けちゃってますわ」


「ええーー!?」


「お、お姉様、落ち着いて」


 なんてこと。いつから破けていたのか……こんなみっともない姿で王宮からここまで来ちゃったの?


 顔から火が出る思いのフェリシアだったが、持ち前の冷静さを何とか取り戻す。


「ご指摘ありがとうございます、マルガレーテ様。大丈夫です。今日、私は服を新調するためにここへ来たのですから。ある意味、丁度良かったです」


 しかし問題が起きた。フェリアに合うサイズの服が、ないのである。作れば可能だが、時間がかかる。明日のミランとのデートに間に合わない。


 しょうがない、男装用の服で行くしかないか。


 諦めが早いフェリシアだったが、マルガレーテは諦めなかった。


「お姉様、もう一つ上の階に、ユニセックス(男女の区別がない)のお召し物を扱うショップがありますわ。最近そういう傾向のお店、多いんですのよ。わたくしがお姉様の後ろにぴったりくっついて、お尻を隠しますから、さあ、そちらに参りましょう」


 マルガレーテの護衛ともども、フェリシアはなすがまま、フロアをぞろぞろと移動した。


 見かけによらず強引な所は、変わっていないなあと、フェリシアはちょっと思ったのだった。

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