第42話~一瞬だけの共闘~
「……時間稼ぎのつもりかしら」
それは巨大な熊を改造した、
「この程度ッ!」
真央は複数のレーザーを同時に放つ。しかし、その鎧と化した毛並みは加護の力により真央の攻撃を弾き返した。
予想以上の防御力に真央が怯むと魔物は地面を蹴り、真央に向けてその巨体を勢いよくぶつける。その速度が魔物のサイズからは想像できないほどの速さで、真央は自分が攻撃を受けたのだと認識する前に背後の巨大な水槽に激突し、分厚いガラスを粉々に突き破る。
全身にガラス片と水を浴び、体中が傷だらけになりながらも翼を広げて舞上がる。そして、再度レーザーを放つも、魔物は意に介していない様子で唸る。
「チッ。これじゃあ火力不足か」
どうしたものかと考えていると、魔物は再び地面を蹴った。身を翻しても避けられないと悟り、少しでもダメージを減らすべく受け身の態勢を取る。
次の瞬間、耳をつんざくような金属のぶつかる音が響く。そして、真央に向かって突進してきた魔物は、途中で態勢を崩し、真央の位置から少し離れた壁に衝突していた。
真央を助けたのは、先ほど理子の攻撃で気を失っていた鈴瀬だった。
「……刃が通らなかった?」
どうやら鈴瀬は魔物が突進する最中に、横から剣撃を放ったらしい。刃で傷付けた相手を幻術の世界に捕らえることのできる刀だが、どうやら魔物の分厚い鋼の毛並みに防がれ、術は発動しなかった。
「ちょっと、本気だしなさいよ。私と戦ったとき、車ごと私を斬ろうとしたじゃない」
助けられた真央だが、鈴瀬を睨んで言い放つ。対する鈴瀬は、過去に殺された経験も有ってか、萎縮するように肩をすくめる。
「あれはマナを込めた斬撃だったから……」
「じゃあマナを込めてもう一度やって頂戴」
「い、今のも込めてました! でもこの魔物、魔法に耐性があるみたいです」
二人が会話している最中に、魔物は鈴瀬に向けて刃物のような爪を立てた手を振り下ろそうとする。そこに今度は真央が、振り下ろされる最中の腕に空中から蹴りを入れる。
狙いが逸れ、鈴瀬のすぐそばの地面が深くえぐれる。咄嗟に反対方向へ鈴瀬は飛ぶが、すぐさま振り返り、絨毯を超えその先のコンクリートにめり込んだ魔物の腕を数回斬りつける。刃こそ毛に阻まれて通らないもなの、打撃のダメージはあるらしく、魔物は呻きを上げて背後に跳躍して距離をとる。
「ふん。やっぱりアンタの言う通り、物理攻撃の方が効果有りそうね」
「……マナを込めずにあの蹴りの威力って、何かの冗談ですよね」
「実はキックボクシング習ってたの。マナが無くても戦えるようにね。他にも空手と柔道と……」
「あ、通りで……」
鈴瀬は屋宮の部屋で組み伏せられた事を思い出し、思わず苦笑する。
「でも、どうして? 普通に魔法を使った方が強いでしょう?」
「魔法を使うためにマナを集めれば、アンタらに目を付けられるでしょう。あのベルフェゴールの娘みたいにね」
「それは殊勝な心掛けですね。では、今使ってるマナはどこから集めたんですか?」
「アンタやアンタの仲間から拝借した分よ。あ、屋宮君からも少し貰ったかしら? 悪魔って不便よね。強い魔法が使えるのに、自前ではマナが生成出来ないから、他者から奪わないといけないなんて」
鈴瀬は納得しつつも、屋宮の先行きを思い苦笑する。悪魔が他者からマナの提供を受ける行為は、古来より生贄や魂を売るといった表現をされてきたが、屋宮は文字通り真央に心を奪われてしまっているのだ。
そこに
「ッチ、なんだこいつは」
「魔物……ですね。今まで相手してきたヤツとは比べ物にならないマナを有していますが」
「あら、物理攻撃が得意そうな連中が来たじゃない。ならここは大丈夫そうね」
真央は魔物の隙を見て跳躍し、通路の先へと移動する。
「てめぇ、待ちやがれ! どこ行く気だ!!」
「ここは任せて先に行け、ぐらい気の利いた事は言えないのかしら?」
魔物は面々の会話に構うことなく、新たに現れたお昼寝商事の団体に向け、突進する。ほとんどの人間が反応できていない中、土御門が札を取り出し防御陣を貼り魔物の動きを止めて見せた。
「言われるがままというのは癪に触りますが、魔王の娘は真央さんに任せて、我々はこの魔物を何とかしましょう。皆さん、やってください!」
土御門の号令に銃を持った戦闘員が防御陣の左右から発砲する。こうして、お昼寝商事と魔物との戦いが始まった。
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