第39話~エイのお腹って可愛いよね~
「人類を滅ぼすって、どういう事だ?」
唐突すぎるたらればの話に、
「例えばの話だけど、この前の戦闘でお昼寝商事の連中をあのまま殺してしまったとするわ。何故かは分からないけど、日本の優秀な退魔師は海外ではぐれ悪魔の退治に駆り出されてるの。あ、はぐれ悪魔っていうのは、私みたいに魔界に居られなくなって、こっちの世界に逃げてきた悪魔の事ね」
「うんうん。それで、鈴瀬たちを殺したらどうなるんだ?」
話が脱線しかけたので、屋宮は話題を修正する。
「日本に居る他の退魔師が私を滅しにやってくる。それも皆殺しにすれば、次は海外に散ってた退魔師が戻ってくる。その次はお昼寝商事以外の退魔組織が駆り出されるでしょうね。そして最後は白夜機関が重い腰を上げてやってくる。流石の私でも、そこまでのどこかで倒されると思うけど、奇跡的に白夜機関を壊滅まで持っていけたとしましょう」
大型のエイが腹を水槽の外側に向けて泳いでいる。エラや口が笑っている顔のように見えて、微笑ましくもどこか不気味に感じられる。まるで、屋宮と
「その後の世界の姿は、今とは大きく変わってしまうわ。私が言うのも変な話だけど、悪魔や魔物に対抗する力を失った人類は私達に蹂躙されるしかない。もしかすると七魔王が人類を支配下に置こうと侵攻してくるかもしれないわ」
「……魔王に支配された人類はどうなるんだ?」
「分からないわ。けれども、不幸な未来になることは間違いないでしょうね。悪魔は人間に対して、あまりにも理解が無いのだから」
真央の語る未来は陰惨なものだが、自分が悪魔であることを棚に上げて、人間の立場に立った物言いに屋宮は希望を抱く。
「ね、分かったでしょ。私は魔界に帰った方がいいの。屋宮君には迷惑をかけてごめんだけど、私の事なんて忘れて新しい人と幸せになって欲しいな」
「……真央は魔界に帰ったらどうなるんだ? それに、お前の母さんはどうする?」
屋宮が尋ねると真央は髪を弄り視線を逸らす。
「どうしましょうね。ママはお昼寝商事の連中に気付かれてないみたいだし、しばらくはこっちに居て貰った方が安全かな。私は向こうでも何とかやってけると思うし。屋宮君ももう知ってるでしょ? 私って、強いんだよ」
嘘だと屋宮は察した。真央が強い事は知っているが、もしも魔界に戻ってやってけるのなら、とうの昔に魔界に帰っているはずだ。きっと他の七魔王の力は、真央と比べても強力なのだろうり
このまま魔界に帰らせれば、真央の身に何が起こるか分からない。やはり引き止めなければ。
「なあ、もしもそんなに人類が大変な事にならずに、俺達が一緒に居られる道があるとすればどうする?」
真央はいかにも期待しない様子で屋宮を見る。
「話だけなら聞くわ」
「真央がお昼寝商事と契約して使い魔になればいい」
屋宮の言葉に真央は肩をすくめる。
「遠慮しておく。きっとあの連中も私みたなのが仲間になっても、いつ裏切られるか不安だと思うの。それに、私は連中を殺そうとしたわ。今更、見逃してもらう為に仲間になるだなんて、厚顔無恥にも程があるわ」
厚顔無恥ってどんな意味だったか。屋宮は分からない言葉に一瞬怯むが、今の本題はそこではない。
「だけど真央はあいつらを殺さなかった。働いてもらうだとか理由を付けてはいたが、その力で蘇らせていたじゃないか。聞いた話だと、お前と戦って死んだヤツは居ないらしいじゃないか。今までだって、人間を殺した事が無いんじゃないか?」
「……一人でも殺せば、追跡が厳しくなる。その先に待ってるのは、さっき言ったみたいに、私がこの世界を滅ぼす結果になる。だから殺さなかっただけ。別にあんな奴らの事なんて、どうでもいいと思ってるわ」
「それはつまり、真央が誰かを殺さなかったのは、この世界を守りたかったからなんだろ。真央が本気で魔界に帰りたくないのなら、邪魔なやつらを全員消してしまえばいい。その為の力もある。だけど真央は、俺と世界とを天秤にかけて、この世界をそのままの姿で残す事を選んだ。悪魔ってのは、漫画やゲームみたいに自分本位で悪さをする奴らばかりだと思ってたけど、真央は違う。だったら、この世界を守るために戦ってる連中と手を組む事だってできるんじゃないのか?」
その結果、屋宮はお昼寝商事の連中に狙われることは無くなり、真央はこの世界に留まることが出来る。何も問題が無いと思っていた。
「屋宮君は……自分が言ってること、分かってる? 私に同族殺しをしろって言ってるのよ?」
それは指摘されるまで気づかなかった事だった。だが、今更考えを改めるわけにはいかない。
「悪魔は同族意識が希薄って聞いたぞ」
「ええ、そうね。でもそれは人間だって同じじゃない。人間同士で憎しみ合ったり殺し合ったりする。だけど、友達や家族の事を大切にもする。確かに他の派閥の悪魔だったら、戦う事に抵抗はないわ。でも、私のパパやママも悪魔なのよ? もしも私が連中の使い魔になったとしたら、ママを殺せと命じられるかもしれない。屋宮君は私に家族を殺せと言うのかしら?」
屋宮は何か答えなければと焦りながらも、言葉が見つからずに黙ってしまう。少しの間、ただ見つめ合っていると、真央は短くため息をつき、立ちすくむ屋宮を置いて先を歩き始めてしまう。
「話は終わりね。バイバイ、屋宮君」
「ま、待ってくれ」
引き留めなければ。その一心で屋宮は真央の右腕を掴む。
その瞬間、異変が起こった。
「二人とも! 危ない!!」
螺旋階段の上から
しかし何か黒いツタのようなもので屋宮は受け止められる。衝撃に混乱しつつ、屋宮は真央の腕を掴んだままである事に気づく。
「……真央!」
体から別たれた、僅かに血が滴る真央の右腕だけを力強く握りしめていた。
「ふふーん。剣君ゲットだよ。さあて、ルシファーの娘さんは生きているのかな」
聞きなれた声が耳元でする。振り向くとそこには、屋宮の良く知る人物の姿があった。
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