第35話~魔王の娘には魔王の娘をぶつけんだよ!~
結局
「……じゃあテメェは魔王の娘と会話一つできなかったって事か!?」
「……すいません」
この前の地下病棟とは違い、屋宮が通されたのは高層ビル上層の、街並みが一望できる開放的な会議室だった。そこで事情を正直に伝えた屋宮は、怒りで顔を赤らめる
「まあまあ、芦屋さん。真央さんを魔界に送る算段はついたのですから」
「後は大量の水をどこで調達するかですね」
真央が魔界に変える方法が見つかった? それなら、もし屋宮が説得に失敗すれば、真央とはもう二度と会えないかもしれない。
「馬鹿やろう! 魔王の娘には魔王の娘をぶつけるんだろうが!!」
「あれ、芦屋さん。もともとは魔王の娘を使い魔にするのは反対だったんじゃないんですか?」
「うるせぇ! ころころ方針変えるなって言ってんだよ!」
土御門と芦屋がいつものように言い合いを始める中、屋宮は割り込むように「あの……」と切り出した。
「真央が魔界に帰るとき、俺もその場に行ってもいいですか? その場で真央を説得してみます」
「ああん? 往生際が悪いなてめぇ。諦めが悪い男はモテねぇぞ!」
魔界の"門"を開く方法が見つかれば怒り、真央を説得すると言っても説教だ。こいつの言葉には一貫性が無く、ただ単に人に対して逆張りしたいだけなのだろうか。
「芦屋さん、別に我々にはリスクは無いわけですし、屋宮さんのやりたいようにやらせてあげましょうよ。もしうまくいけば、真央さんを仲間にして、もう一人の魔王の娘を倒せるかもされませんし」
「そうですよ。それに、屋宮さん以外にあの魔王の娘相手に物怖じせず対等に話ができる命知らず、そうそう居ませんよ」
少し馬鹿にされた気がして、屋宮は土御門を睨むが、相手は素知らぬ顔だ。
「……分かったよ。こいつを明日、魔王の娘に会わせりゃいいんだろ。ただし、お前の安全は保証しねえから、明日は死ぬ気で来い!」
芦屋が折れて屋宮の希望が通る。これで後は出たとこ勝負だ。
「とはいえ、こいつが居ればあの化け物が癇癪起こしても止めてくれそうだしな」
「俺は俺のために動きます。散々迷惑をかけてきたあなた方を助ける気はないので、期待しないでください」
「なんだと、てめぇ!!」
芦屋が再びキレたところで、鈴瀬がすかさず仲裁に入る。
「まあまあ、芦屋さん。私たちが迷惑をかけているのは間違いないのですから。それよりも、もう一人の魔王の娘の行動はどうですか?」
話題が真央から移り、屋宮とは関係の無い話になる。このまま聞いていても良いのか不安になるが、周りの大人たちは構わず話を続ける。
「水曜日辺りから活動が活発になってますね。週に一回程度だった繁華街でのマナの回収も、水曜から金曜にかけて毎日行われています。木曜日には私の部隊と戦闘になりましたが、召喚された熊の魔物の相手をしているうちに、逃げられてしまいました」
「私がこの前、明富商店街で捉えた魔物と同型でしたか?」
「ええ、そうでした。鈴瀬さんのようにスマートな仕事はできず、何人か手負いの人員が出てしまったことが恥ずかしいです」
どうやら、あの商店街での魔物をけしかけたのは真央ではなく、もう一人の魔王の娘だったらしい。
「でも、何で急に動きが活発になるんだよ?」
「悪魔の考える事なんて知りませんよ。ただ、マナの回収に躍起になるということは、近いうちに何かを仕掛けてくるという事でしょう」
一同の表情が曇る。何が狙いなのか分からない以上、ただただ漫然とした不安を募らせるしかない。払拭するには、もう一人の魔王の娘を撃退するしかないだろう。
「やはり、もう一人の魔王の娘と事を構えるには、真央さんの協力が不可欠です。私たちは屋宮さんが元サヤに収まるよう、全力でサポートしましょうー!」
「使い魔にするのと、こいつが元カノとよりを戻すのは別問題だろうが。なんでお前は楽しそうなんだよ!」
芦屋に叱られて、鈴瀬は「テへッ」と舌を出して誤魔化す。なんだか、他人に自分の恋愛を弄られているようで、恥ずかしさのあまり顔をしかめてしまう。
「と、とにかく! 俺は真央が魔界に帰らないよう説得して、お前たちは俺が真央と話す機会を作る。それでいいだろ!」
「……良いこと思いついちゃいました!」
鈴瀬が突然、笑みを浮かべて立ち上がった。
「良いことってなんだよ?」
「屋宮さんが彼女さんとお話するのに絶好の場所で、もし説得に失敗しても魔界への"門"を開くための水がすぐ確保できる場所です!」
話をしながら鈴瀬は屋宮を指差す。
「屋宮さん! 明日は水族館でデートして下さい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます