第29話~終結~
「
「分かりました。タイミングは土御門さんに合わせます」
鈴瀬と土御門は互いに目配せをする。その様子に真央は憐れみの言葉をかける。
「可哀相に……すこしでも希望が残っていると、人間は足掻いてしまうのよね。私を怒らせた時点で、もう助かる術は無いというのに」
真央の周囲に浮く光の珠の一つが強い光を放ち、例の熱線を繰り出す。土御門は鈴瀬を狙った熱線の射線上に立ち札をばら撒く。
「
宙に魔法陣のようなものが浮かび上がり、熱線を防ぐ。先ほどと同じ風景だが、土御門は次の一手を打っていた。
熱線を防いでいる隙に、札の束をもう一つ取り出し、周囲にばら撒く。熱線の衝撃に乗って、札はバラバラと撒き散らされる。
「式・
撒き散らされた札は放置された数多の車に張り付き、光を放つ。すると、重々しい鉄の塊であるはずの自家用車たちが宙に浮きあがる。キログラムよりもトンで重さが表されるような物体が宙に浮いているのも異様な光景だが、それらは次の瞬間、熱線を放つ真央を中心に磁石に引っ張られるように飛ぶ。
やがて熱線は止み視界が開ける。真央の居た地点には無数の車両が折り重なり、巨大な鉄の塊が出来上がっていた。
「今です、鈴瀬さん!」
「雨雲一文字・
鈴瀬は俊敏な動きで不安定な鉄の塊へ駆け、斜めに一刀両断する。いくら鋭利な刃物でも、人の腕で車を切り裂く事など不可能に思えるが現に目の前では、テレビで見た居合の実践で切り落とされた竹のように、車の塊が真っ二つに切り裂かれ、重力によりゆっくりと崩れ落ちる。
「……やりましたね」
土御門が安堵の声を漏らす。しかし、鈴瀬は鬼気迫る表情で振り返り、声を上げる。
「手ごたえがありません! 警戒を……」
崩れ落ちる鉄くずの背後から熱線が二つ伸び、鈴瀬の肩と胸を貫く。彼女は声を上げる間もなく、苦痛の表情でその場に倒れ込む。
「鈴瀬さん!」
仲間の負傷に駆け付けようとする土御門にも熱線が迫る。それは今までの直線の攻撃ではなく、熱線が斜めに動き、居合の袈裟斬りのように右肩から左腹部にかけて体を切断する。鈴瀬に居合の要領で切り付けられた事の意趣返しだろうか。当の本人は何をされたのか分からなからぬままに、その場に崩れ落ちた事だろう。
「どうして無駄に足掻くのかしら。初めからこうなると分かっていたでしょうに」
真央は無残な姿になったお昼寝商事の面々を眺め、憐みの言葉を口にしつつもその表情は満足そうなものだった。
「……
あまりにも非現実的な光景に、ただただ茫然と眺めることしかできなかった屋宮は、やっとの思いで口を開く。
「……
真央は翼を広げた状態で屋宮の元へと歩み出す。しかし、屋宮は思わず後ずさる。恐怖で足が硬直して、そのままバランスを崩し尻もちをつく。
その様子を見た真央は悲しそうな表情を浮かべる。屋宮はしまったと思いながらも、恋人が人智を超えた力で蹂躙する様を目の当りにし、その恐怖を拭う事が出来ずにいた。
「ち、違うんだ真央、これは……」
「どうしてそんなに怖がるの? もう悪い大人たちは処分したよ?」
「……それも違う。この人たちには俺から協力をお願いしたんだ」
実際には付きまとわれる事に嫌気がさした屋宮が、自分から連絡を入れた形ではあった。その前は度々襲われて辟易していたものの、昨晩の魔物から屋宮を守ってくれた鈴瀬の行動や、車の中でのやり取りを見て、お昼寝商事の三人の事は完全な悪人だとは思えなくなっていた。
だから、そんな三人が恋人の手によって殺されたこの状況が、屋宮にとって受け入れがたいものになっていた。
「真央、どうして殺したんだ。何もここまでしなくても良かったじゃないか。話し合えば分かり合える可能性だったあっただろ! 殺してしまえば、もうどうする事もできないじゃないか!!」
屋宮は恐怖に震えながらも、語気を強めて言い放つ。いくら恋人だろうと、これほど強い否定の言葉を投げかければ、あの光の熱線を差し向けられてしまうのだろうか。そんな不安がよぎり、屋宮は自分の発現を後悔した。
しかし、真央は一層悲しそうな表情になり、肩を落とすだけだった。
「……そうだよね。こうなるって分かってたから、本当の事が言えなかったの。ごめんね」
真央は左手を掲げる。その手からは黒いオーラのようなものが溢れ、宙に黒い渦を作る。
さっきの戦闘では使わなかった技だろうか。屋宮はそれが自分に差し向けられるものだと覚悟する。
だが、黒い渦は地面に倒れるお昼寝商事の三人に向けて何かのエネルギーを放つ。怒りを鎮めるための八つ当たりかと屋宮は思うが、その予想は百八十度違った。
「う、うぐぅ」
鈴瀬が間の抜けたような声を上げる。驚いたことに、身体を穿たれる致命傷を負っていたハズの鈴瀬が息を吹き返したのだった。
「す、鈴瀬!」
屋宮が声をあげると、真央は微笑みをうかべる。
「屋宮くんは優しいね。安心して、屋宮くんの足を治したのと同じ治癒魔法だから」
語る真央の仕草は、先程までの恐怖心を抱かせる怪物ではなく、いつもの人間の真央そのものだった。
だからこそ、屋宮は油断してしまった。無防備な屋宮に、無慈悲な言葉という暴力が襲い掛かる。
「屋宮くん……ごめんなさい。付き合ったばかりだけれども、別れましょう」
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