第28話~なんとかブリッジの死闘~


「それじゃあ、誰から死ぬ?」


 白いバンの上に立つ真央まおは、空を仰ぐように両手を広げる。すると、無数の光の珠が宙に現れる。


「死ぬのはテメェだ!! 退魔弾でハチの巣にしてやる!!」


 芦屋あしやが取り出したのは重々しいサブマシンガンだった。銃口を真央に向け、引き金を引く。連続した銃声と共に無数の弾丸が少女に向けて放たれる。


 対する真央は翼をはためかせ、空へと舞上がりそれらの弾丸を避ける。周囲に現れた無数の光の珠は、真央の動きを追う様に動く。


「ひゅー。芦屋さん、図体デカい割に器用な真似しますよね。あの弾丸自体は市販のものと変わらないのに、弾丸が射出される瞬間に自分のマナでコーティングして悪魔にも有効な加護を付与してるんですから」


「うるせぇ、テメェは反撃に備えやがれ」


 声は銃声にかき消されながらも、何とか意思疎通が取れる。怒鳴られた土御門つちみかどの手にはどこかエキゾチックな模様が描かれたお札の束が握られていた。


 やがて銃声が止り、カチカチと空撃ちの音へと切り替わる。芦屋が弾が切れたマガジンを取り換えようと懐に手を入れた瞬間、これ幸いにと真央が反撃へと転じる。


 光の珠の一つがより強い光を放つ。次の瞬間、その光の珠から熱を帯びたレーザーが芦屋に向けて放たれた。


五芒守備陣ごぼうしゅびじん


 光が放たれたと同時に、土御門が芦屋の前へと躍り出る。手に握ったお札の束をばら撒くと、札は宙で留まり前方に星形の魔法陣のようなものが浮かび上がる。魔法陣は真央が放ったレーザーを受け止め、そのエネルギーを音と光へと変換して吸収する。


 目と耳が壊されそうな光と音の中、攻撃が防がれた事が意外だったのか、真央の動きが一瞬怯む。


「雨雲一文字・飛刃とびやいば


 鈴瀬すずせが抜刀し空中で滞空する真央に向け刀を振るう。商店街で屋宮やみやを助けた時と同じ技だ。理屈は分からないが、空を切った鈴瀬の斬撃は空間を伝って離れた敵の元へと向かう。


 しかし、真央は斬撃をひらりと避ける。


「ッチ!」


「いや、十分だ。装填完了、行くぞ!」


 鈴瀬の舌打ちを芦屋はたしなめつつ、弾が補充されたマシンガンの引き金を引く。真央はそれらの弾丸を避けるため、空中を縦横無尽に飛び続ける。


 芦屋が攻撃を行い、土御門が防御にまわり、鈴瀬が攻守の足りない部分をサポートする。一見するとコンビネーションの取れた三人の作戦で真央が押されているように思える。しかし、空から見下ろす真央は余裕の表情を浮かべている。


「クソ! キリがねぇ」


「避けるという事は有効な攻撃という事でしょう。この調子で相手が疲弊するまで粘り続ければ、光明は差すはずです。最悪の場合でも、鈴瀬さんが動ければ勝機が残ります。芦屋さんもそのつもりで立ち回ってください」


「もし私の雨雲一文字の刃が通れば、幻術の世界で悪魔の精神を縛ることが出来るから、ですよね?」


 鈴瀬の言葉に土御門がこくりと頷く。確かに、鈴瀬の刀は少しでもその太刀筋をくらえば、現実世界では身動きが一切取れなくなる。屋宮自身も身をもって体験していたし、明富あけと商店街で襲われた魔物も一撃で行動不能にしていた。


 しかし、真央もそれを察しているのだろうか。屋宮のアパートでもあの刀には一切触れることなく鈴瀬を撃退していた。できる事ならば、真央にはあの弾丸で負傷するよりも、鈴瀬の刃で無力化し交渉の席についてほしいというのが、屋宮の希望だった。


「土御門! もう弾が切れる!!」


「はいはい、守りますよ」


 再び土御門が芦屋の前で防御陣を貼る。しかし、一同の予想に反して真央は先ほどの熱線を放ってこなかった。


「……なんだアイツ。諦めたか?」


「私の防御を突破できないと判断したのでしょうか?」


「……何か作戦があるのかもしれません」


 会話しつつ芦屋は再びマガジンを取り換え、攻撃を再開させる。だが、しばらくマシンガンによる攻撃が続いたところで、芦屋の銃に異変が起こる。


「なっ!」


 地面のコンクリートから空に向けて熱線が立ち上り、芦屋の銃を貫いたのだ。真央は銃撃を避けつつ橋の下に光の球を忍ばせて、武器を狙って熱線を放ったのだろう。熱量と衝撃にあてられた芦屋は思わず銃を手放し、後ろへと下がる。


「芦屋さん、いけない!!」


 攻撃を防ぐ役目である土御門から距離を取ってしまった芦屋を、真央は見逃さなかった。上空より熱線を撃ち、土御門が陣を展開するよりも早くその熱線は芦屋の腹部を貫通した。


「うぐぅ!」


 腹部を穿たれた芦屋はうめき声を上げその場に倒れ込む。身体にぽっかりと穴が開いているというにのに、血は一滴も流れていない。代わりに周囲には肉の焼けるような匂いが立ち込める。傷口が一瞬で焼き上がり、出血を留めてしまったのだろうか。


「まずは一人。さあ、次はどちらにしようかしら?」


 容易く一人を撃破した真央がゆっくりと空から降りて来る。恰好こそ滑稽なものだったが、獲物を狙う肉食獣のように冷たくぎらついた目で残った二人の敵を見定めていた。

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