第21話~夜道の一人歩きのご注意を~
「助けた方がいいのかな、
「
「お、お前!」
巨漢の一人が理子の姿を見て狼狽える。この状況は明らかに一般人に見られてはマズイ状況だ。そういえば、
「警察呼んでたら剣君が連れてかれそうだから、今ここで助けるよ。あと、ロデリーコ先輩って呼んで欲しいね」
理子はそう言って屋宮を掴む巨漢にジャンプして顔面を殴る。
絶対に理子の細い腕ではこの巨漢にフィジカルで勝つことは出来ないだろう。無謀な事はやめて、警察を呼んで来て欲しいと屋宮は至極当然の感情を抱く。
一時的に拉致されるのはやむを得ないとして、車のナンバーだけでも警察に情報共有できれば、救出される確率は高くなる。もっとも、昼に警察を呼んでお昼寝商事の戦闘員が家に押しかけて来たのだから、裏で二つの組織が繋がっている可能性はあるのだが……。
しかし理子が巨漢を殴った次の瞬間、屋宮の予想に反して信じられない光景が広がる。
殴られた巨漢は屋宮から手を離し、殴られた勢いで大きく後ろに吹き飛び、自分が乗って来た黒塗りの車に激突した。そのままフロントガラスを突き破って車内に乗車するという、アメリカの映画のような状況だ。とても理解が追い付かない。
「よし、まずは一人だね」
「てめぇ!」
残った二人の男は、自身のスーツの内ポケットをまさぐると、明らかにそこに入るとは思えないサイズの武器を取り出す。鈴瀬の刀もそうだが、お昼寝商事には四次元ポケットの技術でも有るのだろうか。
「え、ちょっと待て。ここは日本だぞ!」
屋宮は取り出された物を見て、思わずツッコミを入れる。
それは黒々と鈍い光を反射する重々しい銃だった。二人は両手でそれを抱える様にして、理子に銃口を向ける。ゲームで得た知識だが、あれはいわゆるサブマシンガンというヤツではなかっただろうか。
「剣君、そこのポストの裏に隠れて!」
理子の声に呼応して、屋宮はポストの裏に隠れる。
「みち……ロデリーコ先輩も早く!」
路手先輩と言いかけたが言い直す。こんな緊急時だというのに、そんな事に頭が回る。
屋宮は理子も物陰に隠れ、銃撃から身を守るものかと思っていた。しかし、理子はその予想に反して、
「なっ!」
その行動が予想外だったのか、二人の男はトリガーを引くのを逡巡する。もともと脅しの為に取り出しただけで、発砲する気など初めから無かったのかもしれない。そもそも日本で銃声が聞こえれば、お昼寝商事が裏で国家権力と繋がっていようが関係なく、警察が集まってくるだろう。
敵が怯んだ隙に理子は片方の男に肉薄し、足払いで銃を捨てさせると先ほどと同じように顔面を殴りつける。今度は民間のブロック塀に全身を打ち付けられる。大丈夫だろうか?
「クソ!」
残った一人が銃を仕舞い理子に殴りかかる。銃の発砲を控えたのは、仲間に当たるのを危惧したからだろう。
しかし、理子は軽やかな身のこなしで男の攻撃をいなし、殴りかかってきた腕を掴んで持ち上げ、車に向けて投げ飛ばす。
一体その華奢な体躯のどこにそんな力が有るのだろうか。屋宮は不思議に思いながらも、目の前の脅威を理子が退けた事の驚きが上回る。
「ほら、剣君。今のうちに逃げるよ」
理子は屋宮に駆け寄ると、手を取って走り出す。
「え、ちょっと待って下さい!」
理子の香水の香りが屋宮の鼻を刺激する。心臓が高鳴るのは危険が差し迫っているからか、当然のように手を握られた事によるものか。
「待っていたら、あいつ等の仲間が集まって来ちゃうよ。早くここから離れないとね」
「で、でもどこに……」
「まずは人通りの多いところ。他人の目が有れば、銃なんて物騒な物出させないよ。それで、警察や警備員がすぐに駆けつけてくれて、この時間でもゆっくり座って休めるところだと嬉しいね」
「……コンビニですか?」
「うん。正解だよ」
屋宮は一瞬だけ考えその答えを思いつく。あそこなら警備会社との契約もしているだろうし、銃を持った人間が来店すれば警察に通報もしてくれるだろう。何より、イートインコーナーでゆっくり腰を据えて休むことができる。
しかし、きっと理子からどうして屋宮が襲われていたのか、質問責めになる事は安易に想像できた。
さっきの男達は悪魔から人々を守る正義の味方で、自分は恋人が悪魔だったから人質として狙われていると言っても、きっと精神の病院を案内されてしまうだろう。
やれやれ、どう説明したものか。屋宮は暗い心持ちで理子と共に夜の町を駆け抜けていった。
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