第15話~フードファイターの方々は常人とは違う人体構造をしていると思う~
「いただきま~す」
「……マジかよ」
「それ、食い切れたら賞金出るんじゃねえの?」
聞きたいことは山ほどあったのだが、あまりのメニューのインパクトと目の前の童顔なOLとのギャップに、思わず口から出たのはそんな疑問だった。
「だいぶ前にクリアしてからは殿堂入りで賞金出なくなっちゃいました。今は普通に料金払って注文させて貰ってます」
「……これを同じ人間が食いきれるとは思えないんだけど」
屋宮はちらりとOLの胸を見る。誰かさんとは違い、しっかりとカロリーが行き渡っているらしい。
「あはは。私も毎日この量を食べてる訳じゃないですよ。ただ、
「……マナ?」
聞きなれない言葉に屋宮は聞き返す。
「はい、誰もが持っている物理法則に縛られないエネルギーです。なぜかこのお店のラーメンはマナの回復効率が良いですから」
OLは一口で大量の野菜をスープに浸してから頬張る。同じことを別の人間がやれば間違いなく汚い絵面になるところだが、彼女の場合だと木の実を蓄えたリスのような微笑ましい印象を受ける。
「どうして俺の名前を知ってる?」
屋宮の問いにOLは頬張ったラーメンを嚥下してから答える。食べ方は豪快だが、お行儀は良い。
「どうしてって、警察から聞いたんですよ。ほら、昨日の夜に事情聴取されたでしょう? あの人達は私を追って来た時に
「……何の話をしている?」
「何の話って……屋宮さんも私の術中にハマってたじゃないですか」
支配下? 術中? 理解の及ばない話が始まり少し頭が混乱してきたところで、屋宮が注文したラーメンが運ばれてくる。
「へい、お待ち!」
アルバイトと思われる若い店員は屋宮の注文を置くと、OLに向かって声をかける。
「あれ、
「ち、ちがうよ。屋宮さんはそんなんじゃないよ」
「へぇ~そうなんですか」
アルバイトの店員に名前を覚えられているのは、流石常連と言ったところか。いや、若い女性が大食いチャレンジメニューを頻繁に頼んでいたら、店員の方は嫌でも顔を覚えるか。
というか、そもそもこのOLが鈴瀬という名前である事を初めて知る。もっとも、鈴瀬は屋宮と
そんな事を考えていると、「山田」と印字されたネームプレートのアルバイトが屋宮の事を睨みつけている事に気づく。厨房の様子を覗うと、他にもこのテーブルを気にしている店員が数名いる。
ああ、なるほど。この鈴瀬というOLはこの店の店員達にとってマドンナ的存在なのだろう。若くて可愛くて、本来なら雲の上の存在。だけれども店の常連であり、大食いという男性にとっては親近感の沸く要素も持ち合わせている。
そんな鈴瀬がどこの馬の骨とも知れない男と同席しているのは、彼女に憧れを抱くアルバイト達にとっては面白くないのだろう。
正直言って、屋宮自身にとってもこの状況は面白くないのだ。そもそも一緒にラーメンを食べているこの状況がおかしい。
まあ、それを言い出したら、鈴瀬が警察に捕まらず、平和にラーメンを食べているのもおかしいのだが。
「……それで、お前が俺や真央を襲った理由は何だ?」
屋宮は店員が離れるのを待って言う。鈴瀬は頬張ったラーメンの咀嚼に入っていたので、屋宮も運ばれてきたラーメンに手を付ける。
正直死ぬほど美味しいと感じた。口当たりの良い濃厚な豚骨味に味を引きたてるたっぷりの油。よくスープに絡むちぢれ麺に極太のチャーシュー。箸を進める度に、幸せな気持ちが込み上げる。当たり前だ。屋宮はほぼ丸一日、水以外に口に入れていなかったのだから。
「私たちが襲った理由? どうして悪魔を襲う事に理由がいるんですか?」
屋宮は背筋が凍りつく。ビジネススーツという一見まともな姿だから、話せば分かる相手だと思い込んでいた。そんな相手から出てきたのは、術やら支配やら悪魔なんていう何ともファンタジーな単語だ。
「お前、まさか中二病か何か? 妹もよく悪魔との闘いがどうとか、左目に宿る聖霊とか、闇との契約が何とか言いながら変なポーズ取ってたから、そういう人間がいる事は理解できるけど……」
「我が左目に宿りし聖霊よ、闇の血脈と光の契約により、今こそ敵を討ちはらえ! あのアニメ、もうすぐ二期やるので楽しみですよね!」
鈴瀬は立ち上がって、その美声を使いながら何かのポーズを取っていた。屋宮は余り興味が無かったが、確かに妹はアニメの影響でそんな事を言っていたような気がする。
「……なんというか、ノリいいんだな」
反応に困ってそんな事を言う。鈴瀬は急に恥ずかしくなったのか、赤面しながら席に着き、再びラーメンとの格闘を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます